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恋人役−10 ページ10

<Yuzuru Side>

この時点で俺は彼女に恋人役をお願いしようと決めていた。
控えめだけど自分の考えはしっかり持っているし、この子となら節度を持った付き合いができる気がする。


最終的な決断を先延ばししたことで、花沢さんは安心したのか、「それでいいです」とうなづいてくれた。
あー、よかった。ちょっと肩の荷が降りた気分。

 
 
お互いの連絡先を交換し、この先のことを話し合う。

「仙台と名古屋で頻繁には会えないけど、電話はするね。次のシーズンが七月から始まるから、それまでに同棲を開始したいと思ってる。まずはお互いのことを知るようにしよう」

「はい、わかりました」

「あと敬語、やめようよ。建前上は恋人同士ってことになるんだから」

「そうです……、そうだね」

「名前も呼び捨てで。俺はAって呼ぶから、俺のことは結弦でいいよ」


「―――ええっ、いきなり?」

それまで素直に従っていた花沢さんがここで声を上げた。

「ダメ? イヤなら、Aさんにする?」

「……、……いえ、私のことは呼び捨てで構わないですけど、私が羽生さんのことを呼び捨てにするのは抵抗あります」

「敬語」

「あ、ごめん」

「同棲するぐらいの仲なのに他人行儀じゃない? 無理強いはしないけどさ、うちの家族は結構察しがいいから、突っ込まれたときの対処のほうが面倒かも」

顔の前で組んだ両手に顎を乗せて、俺は花沢さんを正面から見ると、彼女は困ったように瞳を伏せてしまった。
昨日今日会った相手を呼び捨てにするのは、やっぱ抵抗あるか。


「まぁ、慣れてからでいいよ。まだ時間あるからね」

「うん、ありがとう」

「気になることがあれば些細なことでも遠慮せずに言って。俺もそうするから」

「うん」

ちょうどデザートを食べ終わり、今日はこのへんでお開きにする。


「羽生さん、今日はご馳走様でした。とても美味しかったです」

席を立ちバッグを手にした花沢さんが頭を下げる。

「うん、……っていうか、敬語」

「あ、つい……」

俺が指摘すると、花沢さんは頬を両手で挟んで、「慣れないよー」とぼやく。


「ふふ、頑張って慣れて」

打ち解けてくれば、そのうち口調もくだけてくるだろう。

俺が笑いかければ、花沢さんも「頑張る」と笑い返してくれて。
あ、笑うとえくぼができるんだなって、発見。

 

一緒にお店を出れないから、花沢さんに先に帰ってもらう。個室に残った俺の口元が緩んでいたのは、誰も知らない。
 
 

ギャップ−1→←恋人役−9



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設定タグ:羽生結弦 , フィギュアスケート   
作品ジャンル:恋愛
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時

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