恋人役−６ ページ6
「できれば、花沢さんにも検討してもらえるとありがたい。まず、お互いに条件を出してみない？」
「そう、ですね。わかりました」
ここまで話をしてみて、羽生さんの印象がかなり回復している。格好つけずありのままの状況を話してくれていると感じたし、決して上から目線じゃなくて私と向き合おうとしている姿勢が伝わってきた。
羽生さんは、ペンと紙を取り出すと、スラスラと書き始めた。
・仙台に住むこと。
・自分とのことは一切口外しない、SNS禁止。
・それぞれの生活、意見を尊重し合う。
・スケートに専念できる環境を作って欲しい。(家事や食事面で)
・お互いに恋愛感情は持たない。
「はい、じゃ、花沢さんも」
と、書き終えた羽生さんは私にペンを渡してきた。
ペンを片手に考えること数分、私は条件を三つに絞る。
・お互いの行動に干渉しない。
・仕事をすることを許可する。(家事が疎かにならない範囲で)
・私の家族の話はしない。
「この三つ目のって……。うん、わかった」
私から紙を受け取った羽生さんは首を傾げた後、これだけでいいの？ と、確認してきた。
「はい」
「そう。俺のほうはこの条件で構わない。花沢さんは？」
「あの、一つ聞いても？」
「もちろん」
「この恋人役って、いつまでの想定ですか？」
将来設計を考えるためにも、私にとっては重要なことだ。
「現役引退するまで、かな。でも、時期は明言できない。クワドアクセルを成功させて満足いく演技ができたら、考える。それまでに花沢さんに好きな人ができたり、続けられない事情が発生したら、切ってもらっていいよ」
つまり、私の意志を尊重してくれる……ということらしい。
「わかりました」
「いきなり同棲っていうのもさすがに乱暴だから……そうだね、五月中は電話したり、会ったりして……で、最終的に決めるっていうのでどうかな？」
羽生さんは視線を宙に浮かせて、思考をめぐらせながら、提案してくる。
「それでいいです」
断る気１００％だったはずなのに、なぜか承諾している。
羽生さんの言葉にうまく誘導されて乗せられた気がしないでもないけど……実際、私としては金銭面で助かるし、家事や料理も苦ではないから、悪くない条件だった。
「本当？ よかったー」
安堵したように肩を下げた羽生さんがふわっと笑う。
切れ長の綺麗な瞳が優しげに細められたその表情は、破壊力抜群で。私は生まれて初めて、男性の笑顔を可愛いと思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 173人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
