理由なんてない−４ ページ50
「あ、暑い……」
アスファルトの照り返しを受けて、日傘をさしていても、ジリジリと肌が焼き付くような感覚がする。
名古屋より仙台のほうが涼しいかと思ったけど、甘かった。温暖化と言うより熱帯化している日本の夏には逃げ場がないらしい……。
「ただいまー」
リビングへ入ると、ひんやりとした空気に生き返る。
エコバックから購入した食材を出していると、「おかえりー」と結弦くんがダイニングへ入って来た。
「お仕事、お疲れさま」
氷をたっぷり入れたグラスに麦茶を注ぎ、私に手渡してくれる。……天使だ。
「仕事がある日は、ご飯は手抜きでもいいよ。大変でしょ」
キッチンの作業台の上に並べた食材を眺めながら、結弦くんが気遣うように言う。
「それじゃ本末転倒じゃない？ 結弦くんの食事を作るためにここにいるのに」
「まあ、そうだけど。無理だけはしないで」
「ありがとう」
優しいな。結弦くんにとっては自然なことなんだろうけど、こんなふうに優しさを振りまかれたら、女の子は誤解しちゃう。フィギュアスケーターでなくても、この人はきっとモテるんだろうな。
次の日の朝、私はいつの間にか降り出していた雨が窓を叩きつける音で目を覚ました。
そして、すぐに体調の異変に気づく。
額に手をやると燃えるように熱く、体の節々が痛い。くわえて、ぞくぞくと背筋から這い上がってくる悪寒。
―――まずいなぁ……。夏風邪かな。
時計を見ると、起きる時間はとっくに過ぎていた。
私はのろのろとベッドから起き出し、寝汗ではりつくＴシャツを着替える。
―――コンコン
そこへ控えめなノックの音。
「A、どうしたの？ 大丈夫？」
返事をすると、遠慮がちに結弦くんがドアの隙間から顔を覗かせる。起きてこない私を心配してくれたのだろう。
大丈夫だよと、答えようとして。体調不良を隠して、結弦くんに風邪をうつしたら大変だと思い返す。
「ごめん。たぶん、熱がある」
「え！？ ちょ、待ってて」
だから、近寄らないで。と、言う前に、結弦くんは慌てて一旦姿を消すと、すぐに体温計を持って戻ってきた。
「はい、測って」
半ば強引に体温計を押し付けられて、私はその場で体温を測る。
ピピッと電子音がした瞬間、私の手から体温計を奪うと、
「38.7度！？ 高熱じゃん」
結弦くんは眉を寄せた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 172人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
