理由なんてない−３ ページ49
マンションを出たときは薄暗かったけど、今は真っ暗な夜空が広がっている。
飛び出たのはいいけれど、行く当てもなくて。やみくもに歩いていたら、団地の中の小さな公園に辿り着いた。
あー、情けないな……。
父親の態度はいつものこと、適当にスルーしちゃえばいいのに……感情的になってしまった。
ブランコに座って揺られながら、街灯が照らす自分の影を見つめる。
いつまでも過去を引きずっている自分が悪いのかな……。
父親には父親の都合があったのかもしれない。何度も考えたけれど、最期の母親の姿を忘れることなんてできなくて。
家族だから、許せない。家族だから、切り離せない。
生温い風が頬を撫でる。
いつまでもここにいてもしょうがない、帰らなきゃ。そう思うけど、気が重くて体が動かなかった。
おまけに、どこをどう歩いて来たのかわからなくて、帰る道もわからない。
今日何度目かのため息をついて、自分のマンションへの経路を検索しようと、スマホにマップを表示させようとしたとき、
「A」
いつもより低めの声に名前を呼ばれた。
「……結弦くん」
公園の入り口に佇んでいる、すらりとした立ち姿のシルエット。
「どうして……？」
「よかった、帰ってこないから心配で」
私を探していたという結弦くんは、走り回ったのか、肩で息をしている。
そして、そばに歩み寄って来ると、私の隣のブランコに座った。
「ブランコなんて、めっちゃ久しぶりだわ」
結弦くんはスニーカーで地面を蹴って、ブランコを漕ぎ始める。
誰もいない公園に、ギイ、ギイと錆びついたブランコの鈍い音だけが響く。
サラサラと艶のある黒髪をなびかせた結弦くんは、頼りない月の光の下でも、整った横顔を見せている。
「帰ろっか」
じゃり、と砂を踏んでブランコが止めた結弦くんは立ち上がると、私に手を差し出してきた。
なにも聞かない。
それは、条件のせいもあるけど……結弦くんの優しさでもあって。ためらうことなく、私はその手を取る。
重ねられた手のひらから伝わってくる、あたたかな結弦くんの体温は、私の凝り固まった心を溶かしていった。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
