契約−3 ページ22
「私は、フィギュアスケートには詳しくありません。だけど、この一ヶ月、結弦さんとたくさん話をして、彼にとってスケートはかけがえのない大切なものなんだなって、感じました。彼がスケートで夢を叶えるために自分を必要としてくれるのなら、そばにいたいと考えています」
これは、嘘じゃない。だから、お父さんから目をそらさず、自分の言葉で話せた。
「……そうか。だったら、私は反対はしない」
「そうね。私たちが反対したところで、一度決めたら何があろうと貫き通す子だものね」
「父さん、母さん。ありがとう」
こうして、揉めることも疑われることもなく、私たちはご両親から承諾を得ることができた。
「でも、Aさん、本当にいいの? これ、すごーく頑固でわがままだよ。絶対、手を焼くよ?」
お姉さんが結弦くんを指さしながら、肩をすくめる。
「ちょっと、姉ちゃん。よけいなことを吹き込まないで」
「はいはい」
適当にあしらいながらも、お姉さんが結弦くんを可愛がっている様子が伝わってきて。こんなとんでもない嘘をついてまで、お姉さんの幸せを願う結弦くんの気持ちがわかった。
住む場所や引っ越しの時期について打合せをした後は、いろんな雑談をして過ごした。
ご両親もお姉さんも私の緊張を解そうと、気軽に話しかけてくれる。特にお姉さんは、よく笑う太陽のように明るい人で、私と仲良くなろうとあれこれ話題を振ってくれた。
当たり前だけど、私に優しいのは、私を結弦くんの彼女だと思っているから。
この素敵な人たちを騙していることに、チクリと胸が痛む。
「Aさんは栄養士の資格を持ってるんですってね」
「ええ、そうなんです。あの、よければ、お母さんの得意料理のレシピを教えていただけますか? 結弦さんは食が細いから、お母さんがいろいろと工夫されているって聞いているので、参考にさせてもらいたいんです」
「もちろん。熱心なのね。結弦のために、ありがたいわ」
「それは、仕事ですから」
「―――仕事?」
お母さんに怪訝な顔で問い返されて……、私は失言したことに気づく。
「えっと、そう、結弦さんの彼女としての仕事ってことです」
慌てて、適当に言い繕うけど。
隣りに座る結弦くんからの視線が突き刺さってくる……。怖くて、顔を見れなかった。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時