ギャップ−９ ページ19
＜Yuzuru Side＞
「いいの、俺が出すんだから。とりあえず、明日までによさそうなところを決めておいて」
「……わかった」
Aさんはどことなく浮かぬ顔をしているけど、ここはスルーする。
「……あのさ、一度だけ聞いていい？」
「なにを？」
「Aさんからの三番目の条件」
―――私の家族の話はしない。
「……いいよ」
一瞬、Aさんの表情が曇る。
「俺の親には明日挨拶に行くとして……、Aさんの家族には言わなくていいの？ 名古屋から仙台に引っ越すわけだし、会うのは無理だけど、電話だけでも挨拶しておいたほうがいいなら俺するけど……」
立ち振る舞いや言葉遣いから、Aさんが大切に育てられた子だってことはわかるから。事情があるにしても、俺は気にせずにはいられなかった。
「必要ないから」
彼女らしくない突き放したような言い方に、俺は内心驚く。
「この話は終わりにしよ。約束でしょ」
「……うん、ごめん。―――それとさ、もう慣れたし、呼び捨てでよくね？」
流れる空気がピリッとしたのを察して、俺は話題を変える。
「どうして、そんなに呼び捨てにこだわるの？」
Aさんは心底不思議そうに、首をかしげた。
「こだわってるわけじゃないけど、家族の前で恋人感を出したいっていうか」
「うーん、でも、よく考えたら、彼氏の家族の前で呼び捨てになんてしないと思うのよね。だったら、今のままでよくないかな」
「それは……」
ぐっと、言葉に詰まる。
「Aさんこそ、どうして頑なに呼び捨てを嫌がるのさ」
「私のことはどう呼んでもいいよ。でも、結弦くんは金メダリストだから。気が引ける」
「え、なに、その理由」
「結弦くんは日本を代表するアスリートなわけだし、敬意をもって接しないと」
「はあ？」
ふざけてんのかと思ったけど、Aさんはいたって真剣だった。
「呼び方にメダリストかどうかなんて無関係じゃない？」
それでも俺は食い下がってみるけど、Aさんは曖昧な笑顔でやり過ごそうとするから、これ以上は堂々巡りになると考えて、自分がAさんを呼び捨てにするだけに落ち着いた。
男が女性を呼び捨てにするのは、相手との距離を縮めたい―――という感情の表れ。
自分のことを呼び捨てにさせたいのは、特別な存在だと知ってもらいたいから。
そんな深層心理、今の俺にはわかるはずもなかった。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
