ギャップ−4 ページ14
<Yuzuru Side>
「最近、機嫌がいいのね」
仕事から帰って来た姉が、ソファで膝を抱えて雑誌を読んでいた俺に、「ただいま」もなしに言ってくる。
「そう?」
「鼻歌が廊下まで聞こえてきたわよ」
鼻歌……、無意識だった。
「毎日夜に電話しているみたいだけど……」
上着を脱ぎながら、俺を窺う姉の目の中にある探るような色。
「ごめん、うるさかった?」
「ううん、相手が誰かなと思って」
「友達に決まってんじゃん」
そっけなく答えて、俺は雑誌に視線を戻した。
きっと、姉ちゃんは俺の返事が嘘だとわかってる。
待っててよ、彼氏の家族から結婚を認めてもらえるようにしてやるから。
俺がスケートを続けるため、金メダルを獲るため、姉ちゃんが我慢してきたことをわかっていないと思わないで。絶対、幸せになってもらう。
自室に戻り、壁にかかっているカレンダーに目をやる。
Aさんと初めて会ってから、もうすぐ三週間になる。その間、電話もLINEもたくさんしたし、いろんな話をしてきた。
そろそろ、最終的な答えを出してもいい頃合いだと思う。
ま、俺は最初から決まってるけど。
家族に紹介して、仙台で新しい部屋を探して、名古屋からこっちに引っ越す。七月までにそれらすべてを終えようとすると、タイムリミットだ。
電話してみよっかな。
いつも夜にしているけど、彼女は今仕事していないから家にいるだろう。
俺はスマホの画面に彼女の名前を表示させて、タップする。
……けど、十コールしても相手は出なかった。
結弦今、どこにいるの? 時間できたら電話して。
勢いのままメッセージを送って……「今、どこにいるの?」は余計だったと思い直す。彼氏じゃないのだ、俺は。詮索しているように受け取られるとマズイ。
慌てて、メッセージの送信取り消しを押そうとすると、
「おわっ」
折り返しの電話がかかってきた。
『もしもし、結弦くん? ごめん、出かけていて』
『いや、それはいいんだけど』
まだ外にいるのだろう、電話の向こうが騒がしい。
……っていうか……複数の男性の声が聞こえるんですけど……。
『にぎやかだね。なにしてんの?』
なるべく自然な感じで俺は尋ねる。
『ん、フットサル』
彼女から戻ってきた答えは、想定外のものだった。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時