ボーダーライン−1 ページ29
街灯に照らされた道路には、見渡す限り車の姿はない。
点滅している赤色信号の前で一旦停止をし、徐行で交差点に入るとゆっくり右折する。目的地の駐車場はガラガラで入り口に一番近い場所に車を停めた。
「ふう……。着いたよ」
「ありがと。まだ慣れない?」
後部座席に座っていた結弦くんが運転席のほうに顔を出してくる。
「うん、やっぱり軽と違って、車幅とか広いし」
私が名古屋で乗っていたのは、就職と同時に購入した中古の軽自動車。
こっちへそのまま持って来るつもりでいたけど、結弦くんから「それじゃ小さくて、荷物が乗らない」と言われて、ワンボックスカーを羽生家が用意してくれた。もちろん、運転席と助手席以外はスモークフィルムが貼ってある。
車の大きさと道にまだ慣れていないのもあるけど、なにより“羽生結弦”を乗せて走ることに緊張するんだよね。
フィギュアスケート界の宝にけがをさせてしまったら……と思うと、ハンドル握る手も震える。
着替えやスケート靴が入ったキャリーケースを車から降ろすと、
「じゃ、行ってくるね」
結弦くんは軽く手を挙げた。
「うん、頑張って」
結弦くんを見送ると、私は読書でもしようとシートを少し倒した。
デジタル時計は、夜中の二時を表示している。
スケートリンクを貸し切りにしようとすると、こういう時間になっちゃうらしい。結弦くんの場合、人目を避けるという理由もあるんだろう。
結果、昼夜逆転した生活になる。太陽の光を浴びない生活は体内時計を狂わせてよくないって聞く。
もちろん、結弦くんはそのあたりもうまくコントロールして体調を整えているはずだけど、フィギュアスケートって大変だな。
初めてアイスリンクへ送って行った日、「え、練習見ないの?」と、結弦くんに驚かれた。それに対し、「寒いところ苦手だし、素人の私が見てもしょうがない」って答えた。
でも、本当は違うんだよね……。
リンクは、結弦くんの領域。氷の上にいる結弦くんの魅力は計り知れない。
動画だけでも心を囚われてしまうのに、そんなものを生で見てしまったら―――私の中に、べつの感情が生まれてしまう。それが怖かった。
―――お互いに、恋愛感情は持たない。
結弦くんが私みたいな平々凡々な子を相手にするわけない。だから、私も彼に惹かれてちゃいけない。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時