検索窓
今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:370,234 hit

生えた草木はいつ蒔いた ページ41

.




──豊かな黒髪と、蝶の羽織りをたなびかせて、彼女は私たちを庇うようにその鬼の前に立ち塞がった。


「もう大丈夫よ」


桃色の日輪刀を握りしめて鬼と対峙する背中は、華奢であるのにすごく大きく頼もしく見える。肺さえ凍りそうな冷気の中、頬を流れる涙だけが火傷しそうなほどに熱い。


「カナエさん、母上たちが……っ!」

「ええ。……間に合わなくて、ごめんね」



鬼とカナエさん。双方ともに動きはない。彼女が引き付けてくれている間に逃げなきゃと思うのに、嗚咽を漏らす体は思うように動いてくれない。



「んー、悪いけど邪魔しないでくれないかな? その子は今とても悲しんでるんだ。すぐにでも救ってあげたいんだよ」

「……因みに、どうやって?」

「決まってるだろう? 俺が食べてあげるんだ! そしたらもう、苦しい思いも痛みも感じることはない。俺と永遠を生きられる!」

「──そんなの、救いじゃないわ!」



──踏み込み。振りかぶられる対の扇を躱し、私たちを狙って放たれる氷柱を斬り伏せ、果敢に斬りかかる。躱し防がれせめぎあう──目で捉えることも難しい、刹那の攻防。


「すげぇ……」


十薬さんがそばで呟くのが聞こえた。気付けば、息をするのも忘れて見入っていた。


「なんで止めるんだい? 俺はただ、あの方の命令をこなすついでに、可哀想な女の子を救ってあげたいだけなのに……」

「っ、命令?」


──凍りついた草木すらこの勝敗の行方を見守っているような、そんな緊迫した空気の中。殺伐としたものを一切感じさせない鬼の声が、剣戟の音に混じって聞こえてくる。



「ここではある実験をしていたんだ。赤子の鬼がどんな風に成長するのかっていうね。あの方も結果を楽しみにしていたんだけど──ふと調べてみたらびっくり! いつのまにか殺されているじゃないか!」


「──っ、」



息が詰まる。それは一年前の、私がこの町を出る切っ掛けとなった事件だ。



「俺はひどく怒られたよ! 万が一にも自分に繋がる痕跡を残さないようにって、こうして後始末まで命じられたんだ。この町の人間は襲わないように言ったのに、隣町の鬼がここの人間を食べた所為で君たちの調査が入って……餌を供給してた俺の努力が水の泡さ!」



──頭が真っ白になる。思考が止まる。今、この鬼は何て言った? 赤子の鬼が町の人を襲うことはなかった? むしろ、鬼が殺されたから、皆死んだ?
それはまるで──……





「鬼殺隊が、この町の人たちを殺したようなものだよね!」

守りたかった、その全て→←赤く瞬く細雪



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (127 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
323人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ドジ猫(プロフ) - 絵宙(えそら)さん» 一応、炭治郎の髪ってことで炭治郎本人は数に入れてないです! わかりにくくてすみません!汗 (2020年3月30日 6時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
絵宙(えそら) - ページ5の「込められた想い」では、弟の数は、茂、六太、竹雄、炭治郎(漢字が違うかもしれません)で、四人だと思います。細かくてすいません。これからも頑張ってください!楽しく読ませていただいてます! (2020年3月30日 3時) (レス) id: 63faa5bcfc (このIDを非表示/違反報告)
由亜(プロフ) - とっても面白いですね!一気に読んじゃいました。寝転びながら読んでたんで、シーツの一部分になみだのしみが・・・(泣きました)これからlet's続編で御座います!面白い小説を有難う御座いました (2020年2月24日 4時) (レス) id: d2128f7714 (このIDを非表示/違反報告)
タートル(プロフ) - 失礼致します!面白くて一気に読んでしまいました!私も鬼滅のお話を書いているので良かったらお越しください。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: 77bb05bd52 (このIDを非表示/違反報告)
ドジ猫(プロフ) - なるは。さん» ありがとうございます!嬉しすぎて顔がにやける……!これからもよろしくお願いします!! (2020年2月16日 22時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ドジ猫 | 作成日時:2019年12月19日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。