胡蝶の夢・下 ページ36
.
──夢を見る。新しい家族が、友達が、仲間が、私の周りで笑ってる夢。
母さんは居ない。炭治郎も、禰豆子も、竹雄も花子も茂も六太も居ない。
これは夢だ。だってこんな光景、見たことない。私の記憶には存在しない。
ああ、でも──…………
目が覚めても、
「ん、むぅ……」
……──緩やかに、意識が覚醒する。
ぼやける視界のまま首を動かせば、もうそこに皆の姿はなかった。
彼女たちは、ここ、蝶屋敷を回すために必要不可欠な人材だ。そのために早く起きて、掃除に洗濯炊事など、やるべきことは山とある。常ならば私もそれを手伝っていたけれど、今日くらいはと皆が気を利かせてくれたのだろうか。
「……でも、もう起きなきゃ」
外から漏れる光は殊の外強い。
むくりと上体を起こして、私はそっと目尻に付いた水滴を拭った。
＊＊＊
「では、いってきます！」
任務だ家事だ療養だと忙しいカナエさんたちや蝶屋敷の皆、それに入院中の隊士さんたちまでもが見送りに来てくれた中、私は一人、背を向ける。
右耳の下で私の黒髪を一つに留めてるのは、白地に赤い縁の、蝶屋敷の皆とお揃いの蝶を模した髪飾りだ。
元々着けていたりぼんは木の枝に引っ掛けて破れてしまって、今はお守りへと姿を変えて懐に忍ばせてある。
長い前髪はカナエさんたちのように真ん中で分けて、左耳には花札のような耳飾り。
両手にはいくつも豆が出来ていて、全集中の呼吸によって底上げされた身体能力や体力による駆ける速度は、一般人よりずっと早い。
──これから私は、藤の牢獄で七日間、己の命を守り通す。
(この選別が終わって。
鬼狩りになって。
──沢山の人を、救って。もう十分だと思えたなら、その時は──……)
『Aちゃん！』
──あの家に、帰りたいな。
もし私の中で、喪った炭治郎たちの命と同じだけの重さの命を救えたなら。守れたなら。その時は、蝶屋敷ではない、先生や、母上や父上、誠司のいるあの家に帰ろう。幸せを、掴みに行こう。
(蝶屋敷の皆には手紙を送ろうかな。沢山お世話になったし、時々はお手伝いに行ったり……)
……そんなことを考えていた私は、忘れていたのだ。
亡くなった誰かが笑いかけてくれるような現実は存在しない。
けれど。
──幸福な日常が壊される、なんて悪夢なら、いとも簡単に実現し得るのに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 322人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ドジ猫(プロフ) - 絵宙(えそら)さん» 一応、炭治郎の髪ってことで炭治郎本人は数に入れてないです！ わかりにくくてすみません！汗 (2020年3月30日 6時) (
レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
絵宙(えそら) - ページ5の「込められた想い」では、弟の数は、茂、六太、竹雄、炭治郎(漢字が違うかもしれません)で、四人だと思います。細かくてすいません。これからも頑張ってください！楽しく読ませていただいてます！ (2020年3月30日 3時) (レス) id: 63faa5bcfc (このIDを非表示/違反報告)
由亜(プロフ) - とっても面白いですね!一気に読んじゃいました。寝転びながら読んでたんで、シーツの一部分になみだのしみが・・・(泣きました)これからlet's続編で御座います!面白い小説を有難う御座いました (2020年2月24日 4時) (レス) id: d2128f7714 (このIDを非表示/違反報告)
タートル(プロフ) - 失礼致します！面白くて一気に読んでしまいました！私も鬼滅のお話を書いているので良かったらお越しください。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: 77bb05bd52 (このIDを非表示/違反報告)
ドジ猫(プロフ) - なるは。さん» ありがとうございます！嬉しすぎて顔がにやける……！これからもよろしくお願いします！！ (2020年2月16日 22時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ドジ猫 | 作成日時：2019年12月19日 0時
