竈門家長女は帰りたい【鬼滅の刃】

心はそばに ページ34

＊信乃さん&先生視点です。






「いってきます！」


元気よく手を振って別れを告げる娘に、一抹の寂しさを感じながら手を振り返す。


「にしても、いきなり旅に出たいだなんて。よっぽどその旅人さんたちのことを気に入ったんだね」

「そうね。いい出会いに恵まれたんだわ」


帰ってきて直ぐに娘の旅支度を手伝わされた夫の言葉に、くすくすと私は笑いを漏らす。



──ねえ、Aちゃん。実はね、私、貴女に打ち明けられなかったことがあるの。


私たちはね、駆け落ち婚だったの。私はいわゆる良家の出で、顔も知らない人と、愛のない結婚をする筈だったのよ。

でも、私は拓海さんを好いてしまった。幼い頃病弱だった私を励ましてくれた彼を、自分が医者になって治し続けるよと言ってくれた彼を、愛してしまった。


両親が私を愛してなかったとは思ってないわ。成長するにつれて丈夫になっていったことを喜んでくれて、縁談のことも、私のことを想ってのことだったって分かってた。それでも、私は私の世界を捨てて、拓海さんと共に在ることを望んだの。


だから、Aちゃん。後悔なんてしなくていいわ。後ろめたくなんて思わなくていい。だって、私はこんなにも──………




＊＊＊



『私で、よければ』


そう言ってたどたどしく僕の手を握り返した君の姿は、今も鮮明に思い出せる。



──ねえ、Aちゃん。実はね、僕は、君に打ち明けられなかったことがあるんだ。


僕の妻も、鬼に殺されたんだ。僕も、まだ赤子だった拓海も、そのまま妻の後を追う筈だった。だけど間一髪、鬼狩りの剣士さんたちに助けられてね。

生き残った僕らは、全てを忘れることにしたんだ。僕は大人で身体が出来上がっていたし、拓海も幼すぎたからね。鬼狩りの道へは進めなかった。まあ、拓海は赤子だったから、実質判断したのは僕なんだけど。

でも、それを君に押し付けるつもりもないよ。だって、炭治郎君たちを亡くしてから、自分から動くことのしなかった君が、初めてやりたいことを見つけたんだ。止められないよね。

君の将来(さき)を、見届けたい。この夢を諦めたつもりはないけど、君が笑顔でないのなら、何の意味もないんだから。


だから、A。僕らのことを思うなら、どうか振り返らないでおくれ。真っ直ぐ、己の道を見つめてくれればそれでいい。だって、僕はこんなにも──……








((──貴女／君の選択を、喜ばしく思ってるんだから))





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