代償 ページ27
.
「……名前なんて聞いて、どうするのよ」
問いを問いで返されて、私は思わず傾げた首を更に傾けてしまう。
「話をしよう、って、何よそれ!!
哀れんでるの? 見下してるの? っ、いいわよね、貴女は!」
彼女の言葉に、棘が混じる。先程までの毒のような悪意ではない。はっきりと、形になった害意が、私の心を傷つけたがってる。
「何も失ったことなんてないんでしょう!
何も守れなかったことなんてないんでしょう!
だからそんな顔が出来るんだわ。
脅されてる癖に、睨まれてる癖に、そんなに穏やかな顔で笑えるのよ!!」
……そんな顔、と言われて、私は思わず自分の頬に手を這わせた。
おかしい、だろうか。喪って、傷付いて。それでもと、前を向くのは。見えない刃で刺されて尚、手を差し伸べたくなってしまうのは。
変、なのだろうか。
「……鬼にさえ、ならなければ」
「え?」
奥さまが、呆気に取られた顔をする。それは、私に対する暴言に顔を顰めてくれていたしのぶさんたちもだった。
「あの鬼が奥さまの子だって分かって、悲しくなりました。カナエさんたちから、鬼の“なりかた”を聞いた時にも。……鬼にさえ、ならなければ」
常時香が焚かれていた地下の空気はぬくい。それを虚しいと思ってしまうのは。
ここには、“温もり”がないからだ。
「別の幸せがあったんじゃないかって考えてしまうんです。“あの子”も、鬼にならなければ、人の腕に抱かれることが出来た。頭を撫でてもらうことが出来た。笑顔を向けてもらえた筈だった。
なのに、鬼となってしまったばかりに、あの子は愛情を受け取れなくなった」
だから私は訊きたかった。どうして、己の子を鬼にしようと思ったのか。
もし、立場が違えば。環境が違えば。境遇が違えば。
そう思った。もし、私なら。
「家族が大切な気持ちは、分かります。何があっても、何を犠牲にしてでも、生きてほしいと願ったこともあります。大好きで、大切な、私の宝物だったから。でも」
──
「
「ちがっ、私はただ!」
「大好きで、大切な、私の宝物だからこそ……人のままで、いてほしい」
──そう思うのは、おかしいですか?
322人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ドジ猫(プロフ) - 絵宙(えそら)さん» 一応、炭治郎の髪ってことで炭治郎本人は数に入れてないです! わかりにくくてすみません!汗 (2020年3月30日 6時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
絵宙(えそら) - ページ5の「込められた想い」では、弟の数は、茂、六太、竹雄、炭治郎(漢字が違うかもしれません)で、四人だと思います。細かくてすいません。これからも頑張ってください!楽しく読ませていただいてます! (2020年3月30日 3時) (レス) id: 63faa5bcfc (このIDを非表示/違反報告)
由亜(プロフ) - とっても面白いですね!一気に読んじゃいました。寝転びながら読んでたんで、シーツの一部分になみだのしみが・・・(泣きました)これからlet's続編で御座います!面白い小説を有難う御座いました (2020年2月24日 4時) (レス) id: d2128f7714 (このIDを非表示/違反報告)
タートル(プロフ) - 失礼致します!面白くて一気に読んでしまいました!私も鬼滅のお話を書いているので良かったらお越しください。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: 77bb05bd52 (このIDを非表示/違反報告)
ドジ猫(プロフ) - なるは。さん» ありがとうございます!嬉しすぎて顔がにやける……!これからもよろしくお願いします!! (2020年2月16日 22時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ドジ猫 | 作成日時:2019年12月19日 0時