勘違い系彼女【松野千冬】 (ページ18)

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9月の花火ページ18

スニーカーの紐をキュッと結ぶと
昼間歩いた道をまた同じように進む。
古びた街灯はパチパチと音を立てて
線香花火のような小さく弾けるような光を放つ。

突き当たりを少し歩くと
すぐそこには待ち合わせの公園があって
明るく照らされたベンチに1人の影を見つけた。

多分時間通りだと思うけど
待たせちゃったかな…？
足元には空き缶が転がっている。

「千冬！お待たせ！」
と小走りで駆け寄ると、いつもの様子で
『おっせーよ！』
と顔を上げ、子供みたいな顔で笑う。

千冬は
『ほら！』
と、手に持っていた物を
わたしに見せつけるように前に出すと

『花火しよーぜ』

と意外な言葉を投げかけてきた。

花火…？
まだ季節外れって訳じゃないけど
何となく体感的にシーズンは終わったような気がして

「何で花火？」
と、ちょっと戸惑ってしまう。

まぁいいから、なんて言いながら
カチッとライターに火をつけると
シューっと音を立てた花火が2本
連なるようにして色をつけ始める。

『線香花火はやっぱ最後だよなぁ』
なんて言いながら、ぐるぐると円を描いたり
ロケット花火ではしゃいでいる千冬を見ていると
なんだ、いつもの千冬じゃん…
と、少しだけ安心した。

「千冬さ、何か話あるんじゃないの？」

きっと呼び出されたのは
花火がしたいだけじゃなくて
他に理由があるんだな、って思ってたわたしは
3本目に火をつけると同時にそう聞いてみた。

はっ、と驚くような顔をした千冬と目が合うと
途端に目を逸らして
『あー…』
と、言い出しづらいのか口が重くなる。

いや…あのさぁ…
アレだよ…なんて言葉を詰まらせている様子の千冬に
きっとたけみちゃんの事だろうな、と察して

「この間話してた子の…」

と口に出した時
公園のフェンス越しから

「おーい！千ー冬ーー！！」
と、同年代くらいの男の子の声が聞こえた。

花火を持つ手を止めて同時に振り向くと
見覚えのある2人がこちらに向かって手を振っている。

「千冬くん！」
と、嬉しそうに目をキラキラとさせて
1歩、また1歩と近づいてくるのは
わたしが今1番会いたくないな…って思ってた
＿＿花垣たけみちゃん＿＿

間近で見る彼女は
遠くから見るよりも更にかわいくて
月明かりの下でも分かるくらい
肌の透き通った、大きな瞳の
小さい頃大事にしていたお人形さんのようだった。