特等席を君に 【佐野万次郎】

名前を呼ぶ声 ページ9

何？どうしたん？大丈夫？
と起こしてくれた友達に
照れ隠しでちょっと大袈裟に


「ヤバい。折れたかもしれない」
腰と腕に違和感が…
と笑いながら返すと
保健室行く？と心配してくれる。


くそっ…
見られてないだろうな…
なんてキョロキョロしてると


『だっさ！！どこのガキだよ。』
と、こっちを指差して大笑いしてる。
一緒にあの女もクスクスと上品に
口に手を当てて笑ってらっしゃる。




イラつく。




なんだコレ。



ムカつく。



あの子にイラついてるんだか
マイキーにイラついてるんだか
どっちだか分からないけど
とにかく無性にイライラする。




もう嫌だ。
なんとなく腰も本当に痛い気がしてきた。
ほんと大丈夫？
と声をかけてくれる友達に
「やっぱ保健室行こうかな」
と言って
痛さと恥ずかしさで涙目になりながら教室から出る。



突然
「A！」
とわたしの名前を呼ぶマイキーは
俺も行くと言い出す。


予想外のタイミングで名前を呼ばれて
ドキドキと心臓が大きな音を立てる。
何で？
あの子と話してるんじゃないの？
何か大事な話でもしてたんじゃないの？



無理矢理平然を装いながらも
何で？わたし保健室行くんだけど
と言うと
「早く歩けって」
亀かよお前は、おっせぇなー
と、前みたくトンっと背中を押してくる。





すれ違う時に一瞬チラリと見えた彼女は
目を真ん丸とさせながらも
すごく冷たく、なんで邪魔するの？
と大きな瞳は悪意を纏う。



そんな顔をされても困る。
付いてきて、と頼んだ訳じゃない
一緒に行こうと誘ったわけじゃない。
というか見てたでしょあんた
と思ったけど
『あの子と話してたんじゃないの？』
わたし一人で行くから来なくていいよ
と言うと、マイキーは




「うるせぇな、行くっつったら行くんだよ」
と、いつもの俺理論でわたしを黙らせる。




まぁいいや。
少なくともあの子から引き離せたし
行くっつったらダメっつっても付いてくる。



あんまりここにいて周りに何か言われる前に
さっさと保健室に行って先生に見てもらおう。
マイキーと女に気を取られて
イスから転げ落ちました、なんて言ったら
爆笑されるかもしれないけど。



『返事、いつでもいいから』




と小鳥がさえずるまでは
わたしは呑気にそんな事を考えていた。

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