特等席を君に 【佐野万次郎】

何を見てる？ ページ3

「悪いけどわたしの方が先に来たんだよ」
と言うと
『後とか先とか関係ねーの。ここは俺の場所なの。』
とお話にならない。



鳥みたいにピーチクパーチクうるせーから眠れねぇんだよ、なんてブツブツ言いながら
仰向けで空を見上げているマイキーに
『勝負だ』
と仕掛けてみると
ムクっと起き上がり腕を捲る。



ジャンケン、ポン
っと直感で出した手のひらは
今日も相変わらずハサミで切られてしまう。


『はいはい、じゃあねAちゃん』
と手を振り、さぁ教室にお帰りなさいよ
という感じの顔でじっと見てくる。


何故勝てない？
ジャンケンに強い弱いなんてある訳が無い

「マイキーずるくない？」
って言うと
『お前が弱いのが悪い』
って言われる。




はいじゃあね、と背中をポンっと押され
渋々と今日もまた階段を降りる。

先程触れられた背中がなんだかふわふわとして
じゃあね、と追い出されてしまったのに
ちょっとだけ嬉しくなった。

足元が軽くなったような気がして
廊下を踊るように歩いていると
隣のクラスから
「私が好きなのはやっぱりマイキー君かなぁ？」
って声が聞こえた。




聞き捨てならねぇな。
どこのどいつだい？
とドアの隙間から覗いてみると
そこそこ男子からモテる、と噂のある子だった。


くるんと少し癖のある栗色の髪に
くりっとした大きな瞳。
口を動かせば鈴が鳴るような声。
子鳥のさえずり、とでも言うのかな？
ほんのり紅色に染まる頬は
わたしから見ても可愛いと思う。



あの子がマイキーを？
月とすっぽん、どう頑張っても勝ち目はない。


接点を持たせるわけにはいかないな
と、脳が察知した。




あんなボケーっとしたちんちくりんなのに
何故かマイキーはモテる。
ちょっと危ない人を好きになってしまう
という心理は女子中学生にも働くのであろうか？
大人の恋愛を知らないわたしは
危ない人がカッコよく見える
というのはまだ分からない。


ただひとつ言えるのは
あのぼーっとしてそうな目の奥で
何か他の物を見ているような気がして
本当の佐野万次郎という人間が
どんな人なのか、という事が知りたかった。

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