特等席を君に 【佐野万次郎】

2日前 ページ20

卒業式を２日後に控え
日頃からガヤガヤと騒がしい教室は
一段と騒々しくなっていた。


大掃除をしながら
早くも友達にお別れを言う子や
一生懸命部活の後輩に手紙を書く子
同じ高校へ進学が決まって
また一緒のクラスだといいね！
と、色々な声が聞こえてくる。


別校舎からは合唱練習をしているのだろう
心地の良いキレイな歌声も響く。
当日はきっと泣いちゃうなー…
なんて思いながら聞いていた。



学校での思い出は沢山あって
イベントや部活のコンクールや
夏休みや冬休み
3年間何気ない日々の繰り返しで
何一つ不満なく過ごす事ができた。



やり残した事はないと思う。



みんなそれぞれの思いを残して式を迎える。
校庭に広がる8分咲きの桜達は
めでたくも明日には満開になるそうだ。
天気もずっと晴れ続きで
きっといい式になるだろう。




ふとマイキーがあの日
『やりたい事があるから手伝って』
と言ってた事が気になった。
何も聞かされてないけど
卒業式は2日後だ。
間に合うんだろうか…？
本当に何を考えてるのか分からない。




忘れてるならそれでいい。
余計な神経を使わないで済むから。
もう顔を合わせないで済むから。



残りの後2日間
この喧騒の中で何もなく
ただ静かに過ごしたい。


忘れたい
なんて思っても
何度も何度も繰り返し頭の中で





好きなら好きって言わないと
ちゃんと相手には伝わらないよ。





とあの声がリピートされる。




「ねぇ。」
と、同じ声色で声をかけられるまで
ずっとずっとリピートしていた。



今ちょっと時間ある？
と声をかけられるまで
目と目が合いっぱなしだった。


まさかの出来事に一瞬思考回路が止まり
まるで言葉が出てこなかった。


何か用？
と声を出すまでに
しばらくかかった気がする。


いくつかの視線が集まるが
周りはこの異例な事態に気づかず
相変わらずガヤガヤとしている。
この子の穏やかそうな雰囲気に
何でもないと決めつけているんだろう。




『マイキーならその辺にいるんじゃない？』
と言うと
「マイキーくんなら屋上だよ」
とつまらなそうに言う。



あぁ、用があるのはわたしか。
相変わらずめんどくさい奴だ。
最後くらい穏やかに過ごさせてよ…
とイライラしてしまう。





だが、話を聞こうじゃないか。
なんなら文句の1つでも言ってやろうか
と意気込んで廊下へ出た。

前日→←重なる影

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す