何度だって 【佐野万次郎】

見てたの？ ページ15

初めて見せた万次郎の心底不機嫌そうな顔に驚いて
どうした？何かあった？って聞いてみると
わかんねぇの？って顔をする。
そんな顔をされても分かるはずがない。


万次郎は少し間を置いて

「お前さぁ、昨日どこにいた？」

と。

昨日…？
しまった。
まさか見られてた？


一瞬ドキっとしたけど
嘘をついてもダメだ。
何かを知ってる顔だ、と察して
昨日の出来事を簡単に話した。


話してる間、万次郎はずっと無言で
感情をなくしてしまったような目をして
つまらなそうに聞いていた。



『…って訳でさぁ、せっかくのイブなのに最悪だったよマジで。あはは….』
と、隣に座りながら努めて明るく話してみるけど

ふーんと返事をしてまただんまり。

普段ならここで頭をぽんぽんってした後
わたしが落ち着くまで頭を撫でてくれるのに。


予想外の展開で頭が追いつかない。




気まずい。
かつて万次郎とこんなにも気まずい時間を過ごした事があるだろうか？


この味わったことのない空気が怖いと感じる。


ニコニコ子犬みたいにA、A
って尻尾振ってるようないつもの万次郎ではない。


どこで見た？
誰から聞いた？
なんで知ってんの？


答えを探してみても全く見当がつかない。
どこでどうしてこうなかったか全く分からない。
昨日ドラケンから電話もらった時は
まだいつもの万次郎だった気がする。


何かあったとすればその後か。
誰かが万次郎に話したんだろうと察した。


ごめんと謝るのはおかしいと思ったけど
他に言葉が見つからない。



結局わたしは
『ごめん』
と言う。


あぁいう事になるなら行かなかったし
来るって分かってれば断ってた
別に会いたくて会いに行ったわけじゃない
本当は帰りも万次郎に電話しようと思った
というわざとらしい言い訳を添えて。


数秒再び無言の時間が続くと
やっと万次郎は口を開く。


謝らなくていいよ、悪いのは俺だから
と
続けて
「俺ももう疲れたし……辞めよっか」
と言って優しく笑った。



よかった。
これで機嫌が直るはず。




なんて思ったのは間違いだった。

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