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『……天乃くんには、関係ない。もういいでしょ、帰ろうよ』
「ハ？いい訳ないやろ、話は終わっとらんぞ」
『な、なんなの』
質問の答えはノーだ。未だ初恋さえまだだというのにそんな事を聞かれるとは＿＿＿否、初恋は随分前に済ませたか。兎に角、いきなり高圧的に聞かれて答えるのも癪で、反抗とばかりに態と答えなかった。
吐き捨ててしまいたかったが、何とか口の中に飲み込んで彼から逃げる様に横を通り抜けて帰ろうと無駄に力んだ足で踏み出すも、それを許さんとばかりに彼に腕を掴まれて行く手を阻まれてしまう。
私の腕を余裕で握れる程に大きな彼の手に、いつからこんなに差が着いたのだろうと感傷に浸りそうになった瞬間、私の腕を折らんばかりに彼の手に込められる力が強くなった。
『痛っ、』と顔を顰めて、放す様に訴えるが如く彼を見上げて、冷たく私を射抜く彼の無感情な瞳にヒュッと喉の奥が引き攣った音を立てる。底知れぬ威圧感に、心臓がバクバクと嫌な音を立てた。
「答えられんってことは、事実なんやな」
『な、に……違うよ』
「やったら何ですぐ答えんかってん、やましい事でもあるんやろ」
頬を両の手で包み込まれて、無理矢理上を向かされる。意味不明な理論とまるで私を責め立てる様な彼の瞳に耐え兼ねて、自然と視線を彼から逸らせば、今にも沸騰しそうな怒りを抑え込んだ様な、心底怒りを含めた深い溜息が彼の口から細く長く吐き出された。
流石に危機を察知して急いで彼に視線を向けるも、時既に遅し。諦観と激情を湛えた彼の瞳と目が合うと同時に、頬に鈍い痛みと熱さが走り、衝撃と共に視界が彼から外された。
＿＿＿彼に叩かれたのだ。彼の本気では無かったのだろうが、しかし確かにジンジンと熱を帯びた痛みが頬にあって、その事実を認めざるを得なかった。
頬を押さえて、呆然と見あげるしかない私を見て彼は酷く慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる。よしよし、と頭を撫でられて小さく悲鳴が溢れた。
「寂しかったんやろ、やから俺が居るのに余所見なんてしたんやな。そうやろ？｣
赤子をあやすかの様に、私の頭を抱いてトントンと優しく叩く彼に涙が堪えきれずに溢れ出した。喜びでも悲しみでもなく、恐怖からの涙であるが、それを見て彼はにんまりと愛おしそうに笑みを深める。
「これからはいっぱい甘やかしたるからな……次浮気なんてしたら、分かっとるな？」
目の前に居るのは、私の知ってる幼馴染みでは無い。
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