顔だけは良い男(kn) ページ4
「おい、A」
休み時間、こいつが現れる度に教室が少し騒がしくなる。
「……何」
「数学の教科書」
「忘れたの？」
「おん」
そう言って悪びれた様子をなく差し出された手に、ご所望のものを渡す。
「ありがとな」と軽く頭を撫で去っていくその背中を見送ると、さっきまで騒いでいた女子たちが「はぁ」と声を漏らした。
「ほんっとコネシマくんって顔いいよね」
「鼻高い」
「金髪碧眼って、何。どこの王子よ」
「「「いいなぁ〜A、コネシマくんと幼なじみで」」」
昔から言われるこの言葉。
「なら変わってあげようか？」
なんて聞くと全員口を揃えて「それはいい」と言う。
「顔は良くても声でかいし」
「下ネタ酷いし」
「心無いし」
「てかそもそもA以外の女子に愛想ないし」
さっきまであいつの容姿を褒めていた口から飛び出すのは先程と真逆の言葉ばかり。
そう、コネシマは所謂「顔だけは良い男」なのだ。
「なんや、そんなじっと見て」
「別に」
私がそう言うと、特に気にした様子もなく手元の本に視線を戻した。
眼鏡をかけて本を読む姿は悔しいほど様になっている。
「ほんと、顔は良いよな」なんて思いつつボーッと見つめていると、チラッとこちらを見たコネシマが、指でトントンと机を叩いた。
その音にハッとして机を見る。
手付かずの課題。
あぁ、早く終わらせなければ。
そもそもこれをやるために図書室に来たんだった。
慌ててシャーペンを握り直す。
「……ねぇ」
「んー」
「多分これすぐ終わらないから先帰ってていいよ」
「言ったやろ。読みたい本あるて」
そう言って今読んでいる本を掲げるコネシマ。
「借りてけばいいじゃん」
「返すのめんどいやん」
「でも、」
「ええから、はよやれ。すぐ終わんないなら遅なるやろ？ならなおのこと待っとるわ。帰り危ないやろ」
「…………うん」
こんな優しいコネシマを知っているのは私だけ。
そして、本当にこいつが顔だけの男だと知っているのも、私だけ。
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