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ああ。かわいそうだ。
幼馴染が女の腹を撫でるとことも、近くでタバコを吸わないようにしていることも、なにも理解できていない。
『やさしいおとこ』は好きな女の腹に還りたいとは思わないし、何も知らない顔面に毒煙を咽せ返るほど浴びせてやりたいなんて思わない。
ただ気が付かない。
Aとは違うゴツゴツとした指はAのへそのあたりでぎゅっと固く繋がれているし、何にも知らないAはそれをただくすぐったいと思い込む
ああ。この薄い腹の中から産まれることができたら、幼馴染に抱かないような感情を向ける自分の事でさえ赦してくれるだろうか。
(…キモいなァ、まじで)
ここまで考えてしまう脳みそと、何も知らずにゲームの結果を見せびらかすように脚をばたつかせるAが。
「お前が彼氏とか連れてきたらわろてまいそうや」
「失礼すぎる…」
想像しただけでも吐き気がするのに、そのうち来るであろう未来を想像するのが辞められない。自分で塞いだ傷跡にわざわざ塩を塗り込む事に少しばかりの愉悦感さえ沸々と湧いてきた。『どうせ最後隣に立つことが出来るのは自分だけ』、『彼女にはどうせ俺しかいない』。
こうしてAの腹を摩るのも、恐れも知らずに脚の間に入ってゲームに興じるAを見るのも、幼馴染も。結局は自分だけしかいない。
…ああ、Aはかわいそうだ。
学生生活を終えれば何ができるか、どんな職種に就こうか。どんな人と結婚するだろうか。そんな考えも結果もどうせなくなるくせに希望を抱くサマは『幼馴染のきょーさん』にとってはめちゃくちゃに面白いだろうに
「ほら。もう帰れよ〜いつまでここにおるつもりやねん」
(今だけでも謳歌しとけばいい。)
何もない腹の中でくつくつと不気味な、世の中の害という概念を全部纏めて煮詰めたような。通常、人間がだいすきな子に抱く感情なんかじゃないのが支配していることは理解していたけれど、どうしてもにやける口元が嘘をつけないらしい
幼馴染は役得だ。
Aのことなんて手に取るようにわかるのに、分からないふりをしても自分から言葉で伝えてくれる。それに歳の離れた彼女の周りにいる学生たちが猿に見えるほどに余裕がある。
青春気取りのガキが何かを成す術もなく雁字搦めにして髪の毛一本までも全部。
(…ほんまにかわいそうや)
俺が生まれるのがもっと遅かったらこんなことならんかったのに。
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