◇ ページ49
「A！」
聞き慣れた心地の良い低音が私の意識の一欠片を持っていく。
じゃばじゃばと不躾な音を立てて彼が私に近付き浮かぶ私の体を勢い良く抱き上げた。
水に濡れた肌と布に容赦なく風が吹き付け、先程までぴくりとも動かなかった指先がかたかたと震え出した。
ああ、本当に、人の体って不便で厄介極まりない。
『……すまいる、』
「この時期に入るのはやめろって言っただろ」
『迎えに来てくれたの？』
「そうだよ、俺だって寒いんだからな、もうやめろよまじで」
『だって呼ばれたから。呼ばれたら、行かなくちゃ』
海が遠ざかる。
物寂しそうに月の道が、宵闇をそっくり映した故郷が、私を見つめ手招いている。
はなして、おろして、と小さくお願いをするも私の声が彼の鼓膜を震わせる事はなかった。
親も匙を投げた私の手をずっと握り続けてくれる人。
幼い頃に『私、昔人魚だったの』と打ち明けても、馬鹿にするでもなく嘲り笑うでもなく「ふうん」となんでもないみたいに聞いて信じてくれた人。
私が海に呼ばれ家を抜け出す度にこうやって呆れもせず迎えに来てくれる大切な幼馴染。
人間はすきではないけれど、彼のことはとてもすきだ。
浜辺の近くに設置されている休憩スペースのベンチに座らされ、その横に置いてあった手提げ鞄から彼はバスタオルを取り出すと丁寧に私の髪や体を拭いてくれた。
「ほら、これに着てる服入れろ。着替えは鞄の中に入ってるから。風邪拗らす前に早く着替えて来いよ」
『…スマイル、』
「いつもみたいに洗濯しとくから。その服寝巻きだろ？うちに置いとかずに返すからまた渡す時に連絡する」
『ねえ、スマイル』
「なに？」
『もう、迎えに来なくていいよ』
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える。(プロフ) - すいみん。さん» こんばんは、える。と申します。すいみん。様の感情を揺さぶる事が出来て、更にはだいすきと言って頂けて感無量でございます。こちらこそありがとうございます！良ければこれからも見守って頂けたら幸いです、コメントありがとうございました！ (12月1日 22時) (
レス) id: 984bd7bc35 (このIDを非表示/違反報告)
すいみん。(プロフ) - ドチャクソに大大大好きです。最新話、号泣しました。この小説のコンセプトが好きすぎます……素敵なお話をありがとうございました……😭🙏 (12月1日 14時) (レス) id: f12e90341c (このIDを非表示/違反報告)
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