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じゃあどうしてあんなに自分と仲良くしてくれたのかと尋ねると、顔がとても好みだったのだとなんでもないみたいに答えた。
そしてこう続けたのだ、『たらちゃんが女の子だったら付き合ったのに』
その言葉は、往生際の悪い彼に酷く深く刺さった。
彼は彼女の手を掴み、「女の子になるから、Aの前ではちゃんと女の子になるから、私と付き合って欲しい」と自ら報われぬ生き地獄へと身を投じたのだ。
それならばとあっさり了承した彼女は誰が見てもどうしようもないというのに、恋に目を潰された彼は自分が世界一幸せだと錯覚した。
しかし、彼が女の子であるのはあくまで見た目だけだ。
見た目は女の子だとしても中身まで繕った事など今まで一度もなかった彼に、完璧な女の子は演じられなかった。
少し解れる度、小さく崩れる度、彼女の機嫌を損ね身を裂かれる様な苦しみが襲う。
しかし泣いて詫びれば次の日にはまた何事もなかったかの様に接してくれていた。
もしかしたら彼の中で気付かぬ内に、もう男の自分でも愛してくれているのではという傲りが生まれそれが気を緩ませていたのかもしれない。
『もういい』
でも、今日はいつもと違う。
『二度と連絡して来ないで』
キン、と耳鳴りがする。
まるでその言葉を受け入れたくないとばかりに。
「A、?そんな、待っ、」
『男が私の名前を気安く呼ばないで』
ぴしゃりと言い放ち、彼女は彼に背を向けると足早に部屋を去っていった。
扉の閉まる音が部屋に響いた瞬間、ぶわっと涙が溢れ彼のくりっとした可愛らしい目からぼろぼろと零れ落ちていった。
「いや、いやだ、むり、ごめん、ごめんなさい、次はちゃんとっ、A、A!やだあ…ッ!」
布団に顔を埋め、駄々を捏ねる子供の様に譫言を吐き出しながらわんわんと泣きじゃくりしゃくり上げる度に肩を跳ねさせる。
その泣き声が段々と小さくなり跳ねていた肩もようやく動かなくなると彼はゆっくりと顔を上げ、朦朧としながら携帯を引っ掴むとアプリを開き取り憑かれた様に指を滑らせた。
──ごめん
──本当にごめん
──今度はうまくやるから
──ちゃんとする、しくじらないから
──ねえおねがい、ねえ
──きらわないで
──すてないで
──ねえすきなの
──わたしAがすきなの
──A
──ねえ、
(Unknownが退出しました。)
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える。(プロフ) - すいみん。さん» こんばんは、える。と申します。すいみん。様の感情を揺さぶる事が出来て、更にはだいすきと言って頂けて感無量でございます。こちらこそありがとうございます!良ければこれからも見守って頂けたら幸いです、コメントありがとうございました! (12月1日 22時) (レス) id: 984bd7bc35 (このIDを非表示/違反報告)
すいみん。(プロフ) - ドチャクソに大大大好きです。最新話、号泣しました。この小説のコンセプトが好きすぎます……素敵なお話をありがとうございました……😭🙏 (12月1日 14時) (レス) id: f12e90341c (このIDを非表示/違反報告)
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