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ぱしり、と腕を掴まれた。
驚きに肩は跳ね動揺で足は止まってしまう。
悲鳴をぐっと飲み込み掴んでいる手の方に視線を走らせると空色の瞳をした金髪の少年がはっ、と浅く短く呼吸を繰り返し目をこれでもかと開いていた。
『だれ、』
「姉さん!!」
少年はそう叫ぶと私の手をぐいっと引っ張りそのまま私を腕の中へと閉じ込め二度と離すまいとばかりに力を込める。
姉さん?違う、私はこの少年を知らない、誰かと勘違いしている?
『違っ、離して、!』
「姉さん、会えた、また会えたな俺達!やっぱりここは楽園やったんや、俺達はあの檻を抜け出して箱舟に乗って楽園に辿り着く事が出来たんや!なあ、なあ姉さん、A、今度はちゃんと幸せになろな、誰にももう邪魔なんてさせへん、誰も俺達を引き離せへん、愚かにも神を騙ったあのクソッタレに、二度とお前は渡さん。ああ、嗚呼!愛してるA!!!」
──たとえば、箱舟を信じた少年
ドンッ!と少年を突き飛ばし躓きそうになりながらもまた走り出した。
愛してると叫ぶ少年の目が、自分を骨ごと砕こうとばかりに抱き締める腕が心底気持ち悪く、そして恐ろしかった。
少年から逃げ出した私の前に、今度は誰かが立ちはだかった。
横を通り抜けるなり邪魔だと押し退けるなり出来たはずなのに私はまた歩みを止める。
色素が薄く儚げな印象を持たせる髪と瞳を持った上品そうな青年は私を真っ直ぐ見つめ、やがて口角をゆっくりと上げて上品さの欠片も感じない薄気味悪い笑みを浮かべた。
「Aさん…追い掛けて、くれたのですか?私、せっかく持ち帰った貴女の一部を置き忘れてしまって、とっても凹んでいたんです。でも貴女は私が手をかけてしまう前の貴女の姿で私を追い掛けて来てくれた、それが堪らなく嬉しい!だから私は赦しましょう、貴女が私にした仕打ちを。ああ、でも、だからと言って、貴女は私の罪を赦さなくても良い。神にだって赦すことを許さなかったこの罪は、Aさんと俺を繋ぐ大事な絆なんやから。俺の愛しい人、この世で一番愛してる」
──たとえば、歪んだ真珠の青年
こちらに向かって手を伸ばす青年、捕まってはいけないと脳が再び警鐘を鳴らしなるべく青年の姿を視界に入れない様に横を走り抜け再びパレードの列を縫っていく。
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