◇ ページ11
貴方が去りぬ時は消えぬけれどもう一度、逢えるものなら声を聞かせて。
錨を上げて戦い、平和を齎し沈んでいった貴方。
誰よりも愛しく誰よりも私を愛してくれた貴方。
例え石を投げられたって非国民だと糾弾されたって、望んだ平和の為に、私達を守ってなどくれなかった国の為に散って欲しくなどなかった。
──貴方のいない世界など、息をする意味すら見つからない。
頬を幾重も流れる涙は燃える様に熱を持ち、冷たい潮風は体を酷く嬲り凍らせていく。
ああ、いま、海が私を手招いている。
ねえいっそ、貴方と共に沈めたなら。
「おお!綺麗な朝日やなあ!」
鼓膜を震わせた懐かしい声に、時間が止まった様な気がした。
見開いた瞳は動揺に揺れ、声を辿る様にゆっくりと顔を上げ隣に視線を走らせる。
冬の晴天の様な澄んだ瞳、眩しいくらいの金糸、それからずっとずっと想いを馳せていた横顔。
『こね、さ…?』
ああ、これは幻でしょうか?
ええ、きっと幻なのでしょう。
どうやら私は、遂に気が触れてしまったようです。
それでもいい、夢でも構わない。
貴方がまた、そうして笑ってくれたなら。
まるで最期の別れとなったあの日の様に綺麗な軍服に身を包んで、膝をつく私を見下ろし彼の幻は柔らかく綺麗に笑みを浮かべた。
「生きろよ」
「生きて。どうかお前だけは、生きろ」
ああ、なんて酷い人。
貴方の墓標の上に立つ平和に生きようとも望んだ幸せなど訪れはしないのに。
それでも貴方は、そんな私に、貴方のいない世界で息をしろと呪いをかけるのですか。
貴方にそう言われてしまっては、この命を易々と投げ出せなくなるじゃないですか。
『ずるっ、ずるいわ…!やっと、やっと貴方にまた逢えたのにっ、そんな呪いを残してッ……あいしてる、愛しています、ずっと、ずっとずっと貴方だけを…!』
子供の様にわんわんと泣きじゃくる私を見つめ、彼の幻は「しゃあないやっちゃのう」とくしゃりと笑って一層眩しく輝いた朝日に消えていった。
とくんとくん、と脈打つ心臓の音がやけに体の中に響いた感覚がして、ああ私は今生きているのだと、生かされたのだと更に涙が込み上げてくる。
ねえ愛しい貴方、私の寿命が尽きて貴方の下にいくまでにたくさん、貴方が知れなかった色んなお話を抱えておきますから。
だからそれまで、ちゃんと私を待っていてくださいね。
(やくそく、ですからね)
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