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『なかむ……くん、』
「なんでくんなの、なんでそんな余所余所しいの」
『あ、いや、えっと、久しぶり、だね？』
「お前俺のこと避けてただろ」
見透かされている、というか私の事覚えてたんだ。咎める様な口調にぐうの音も出ないが覚えていてくれた事実に少しばかり心が躍る。
「俺、嬉しかったのに。高校入って、Aに会えてめちゃくちゃ嬉しかったのに。お前全然俺に声掛けてくんないし、忘れられてんのかもって思ってたらなんか避けてるし。おれ、俺がどれだけお前に会いたかったか分かる？ずっとずっとAに会いたくて、すっ、うっ…ずっと、ちゃんとっ、伝えッ、うう…っ」
私の髪に顔を埋めながらぐすぐすと鼻を鳴らし始めた彼。
後頭部が酷く生暖かい、というかお願いだから鼻をすすらないで絶対汗臭いから！言いたいことは喉までせり上がり出かかっていたが昔となんにも変わっていないんだなと思わせるほどの大号泣が始まり口を噤む以外の選択肢がない。
「ああもう、っ！せっかく、かっこよくなって、Aの事迎えに行くんだってっ、おれっ、んぐっ…ッ俺、めちゃくちゃがんばったのにぃ……！」
『か、かっこよくなってるじゃん！知ってる？なかむのファンクラブあるんだよ？なかむが笑ったらみんなきゃあきゃあ言うんだから！』
「Aにっ！Aにかっこいいって思って貰わなきゃ意味ないんだよぉ…っ！」
かっこいいよ。君は昔から、ずっと、かっこよくて、でも泣き虫な所が可愛い、私の幼馴染ですきな人だよ。
言えない。さすがに私もそこまで鈍感では無いので恐らく両想いなのだろうなと自惚れてはいるが照れが邪魔をして言えない。ああでもこれも勘違いだったらどうしよう、もしそうだったら死ねる。比喩とかじゃなくて。
『な、なかむ、ね？ほら、いいこだから泣き止んでよ』
「じゃあ、っひ、く……元気になるおまじない、してよ」
いよいよしゃくり上げ始めた彼を宥める様に声をかければ彼はぽつりと呟いた。途端、ひゅっと一瞬息が止まる。『えっ、』と動揺する私の体を離し自分の方に向かせると彼は涙で濡れた澄んだ空の様な瞳でじっと私を見つめ私の頬に手を添えた。
『覚え…あの、あれ、は…』
「俺にだけしてくれたおまじない、ずっと……ずっとして欲しくて堪らなかった」
「すき」
夢にまで見た、欲しくて堪らなかった言葉。
はっ、と気付いた時には、鼻が触れ合う距離に既に幼馴染の顔があった。
(キスの味は、いつだって塩辛い)
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