！おさななづくし！ (ページ18)

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レモンの味とは程遠い/nkm ページ18

──なかむ、もうなかないで？

──そうだ！わたしが、げんきになるおまじないをしてあげる！

──おめめつむって、いいこだから。

幼い頃、泣き虫だった幼馴染をあやす為に、元気になるおまじないだと唇にキスをした。
彼も私もそれがファーストキスだったと思う。
ファーストキスはレモンの味がするのだと少し大きくなってから聞いた事があるが、私のファーストキスの味はそんな甘酸っぱいものではなく塩水を舐めた様にしょっぱかった。

そんな幼い頃の淡い思い出を今も後生忘れられないのはその時に患った初恋を燻らせているからだし、小学校に上がるタイミングで引っ越していった幼馴染と高校で再会したからである。

凡そ10年振りに再会した幼馴染は、もう私の知っている泣き虫な幼馴染ではなかった。

頭が良くリーダーシップもあってみんなの人気者で、女の子の様に可愛らしかった顔立ちは成長と共にあどけなさを残しながらもかっこよくなっていた。
いつもつるんでいる友人達も含めファンクラブが出来ているくらいである。

そんな彼と久しぶりだねだなんて気軽に話が出来るほど、私のカーストランクは高くない。
未だに一言も言葉を交わせないままだしなんなら少し避けてしまっている。

まあ、私のことなんて覚えちゃいないだろうけれど、それでも彼と顔を合わせて話をすることなんて今の私には到底出来ない。

『しんどいなあ…』

ぽつりと呟いて、きゅっと外の手洗い場の蛇口を閉める。

じいじいと蝉の声が犇めく昼下がり、夏休み中であるにも関わらず体操着で学校の敷地内にいるのがなんだかとても惨めに思えた。
部活の練習があるので致し方ないのだけれど。

『早く戻らないと怒られるな……それにしてもあっつ、』

言葉が途中で詰まった。

後ろから衝撃を受け体が少し揺らぐ、驚いて小さく悲鳴を上げ何事だと首辺りの違和感に手を添えるとそれは誰かの腕だった。
どうやら誰かに後ろから抱き締められているらしい、それも見た感じ男の子に。

『えっ、あっ？だれ、』

「やっと、会えた…会いたかった…！」

体が硬直し心臓が瞬時に早鐘を打ち始めた、外気の熱に晒されているからではなく体の内側から熱を持ち始め顔が段々赤くなっていくのが自分でも分かる。

ずっと聞きたくて、でも聞く事を躊躇った声。