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抗議の声に無視を決め込んで黙って彼女を教室から引き摺り出し午前中に使われることはない空き教室へと入り扉をきっちりと閉めてから手を離した。
『いきなりなに、びっくりした』
「なに、それ」
『？……ああ、髪？それとも服かな。イメチェンしてみたの、心機一転したくて。服はね、いつか着たいなって買い溜めてたのがあって、』
「なんで。Aが、僕のAが可愛いの、みんなにバレちゃうじゃん、僕だけの、僕だけが知ってた特権だったのに、」
『…もう、ぶるのAじゃないよ』
深く深く心に突き刺さりその痛みに目を見開くと、彼はまた彼女の手を握りぎりぎりと力を入れていく。
物理的な痛みに顔を歪めた彼女だったが離してと声を上げる事もなくただじっと彼を見つめる。
「やだ、やだやだやだ……！ねえ、まだ怒ってるの？」
『もう怒ってないよ』
「うそ、怒ってるに決まってる！怒ってるから、そんな意地悪言うんでしょ？ごめん、もうしないから、二度としないから、仲直りしよ？そうだ、仲直りのちゅうしようよ。それとも、そう、ここ、午前中は誰も来ないし二人で授業サボって、」
『ぶるーく』
『私、ほんとにもう怒ってないの。でももう、ぶるとキスもそれ以上も出来ない、そういうすきは無くなっちゃった。心が、もう限界になっちゃったんだと思うの。だから、これからは普通の幼馴染に戻ろ？ね？』
「…ぼく、に…ずっとAのことがすきで堪らない僕に、Aが他の男のモノになるのを横で見てろって言うの…？僕以外の誰かとキスをして、愛し合うAをただ見てろってこと？そんな、酷いことを、僕にさせるの、？」
上手く呼吸の出来なくなっていく彼を見つめていた目が見開かれたかと思えば、それまで宥める様に笑みを浮かべていた彼女の顔がくしゃりと歪んで。
『私にずっと、させてきたのに？』
「！っあ、」
『もう私から言う事はないよ。ほら、教室戻ろ？』
自分の手を掴む彼の手を剥がそうと優しくもう片方の手を添えた彼女の手を、彼の空いているもう片方の手が更に強く掴む。
「戻らない」
戻ってしまったらきっと二度と手に入らない。
長い年月をかけて歪みどろどろに溶けたこの恋心を置いて、勝手に吹っ切れた気になるなよ。
「絶対に、離さない」
愚かな男の余裕は、塵程の欠片さえももう残ってはいなかった。
(水が帰らないのなら、)
(また新しく注ぎ直せば良いだけだ)
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