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「A…？」
半狂乱になりそうだった女をなんとか追い出し早急に彼女の部屋に向かって合鍵でドアを開け中に入ると静かに寝室のドアも開けひょこっと顔を覗かせて彼女の名を呼ぶ。
想像通りベッドに寝転び枕に顔を埋めて鼻を鳴らす彼女に思わず笑みが零れそうになった、大学生になっても変わらない彼女の泣き方が堪らなく愛おしい。
「ねえA、泣いてるの？」
『さわらないで』
ベッドに近寄り腰掛け彼女の髪を撫で付けるとぴしゃりと拒絶の言葉が飛び出し彼の指先がぴくりと動いた。
いつもと違う、いつもなら飛び起きて自分に抱き着いて、なんでだとかまただとかお願い捨てないでだとかぽろぽろと吐き出すのに。
「なんでそんな、冷たいこと言うの？怒ってる……よねもちろん。ごめんね、僕、またやっちゃった。直したいんだけど、全然直らなくて」
『もう、いい…直さなくていい、別れる、から』
息が止まった。
あまりにも受け入れ難い単語が脳を反芻する。
「は？なんで」
『なんでってなに？当たり前でしょ、もう、わたし、疲れちゃった』
どう見たって彼が歪んでいて彼が悪いのに、自分から離れようとする彼女がどうしようもなく腹立たしくて理解が出来なくて、彼の言葉に棘が増えていく。
「ごめんって言ってるじゃん。なんでいつもみたいに許してくれないの？僕と別れてどうするの？Aみたいなモサい子と付き合ってくれる男、僕以外にいると思ってんの？」
『……出てって。今は顔も見たくない』
一度も顔を上げない彼女をしばらく黙って見つめていた彼だがそっと立ち上がるとそのまま彼女の部屋を出ていった。
胸はムカムカしているし頭の中はぐちゃぐちゃで心は痛くて堪らなかったが、明日になればきっと機嫌も直って仲直り出来るだろう。
彼にはまだ、余裕があった。
「は、？」
翌朝教室に入るとちょっとした人集りが出来ていた。
何事だと人の隙間に目を凝らすと180度様変わりした幼馴染が席に座っているではないか。
伸ばしっ放しだった髪をカットしてセットまでしている、顔の大半を隠していた前髪も綺麗に切り揃えられ暫く彼しか知らなかった可愛らしい顔が顕になっていた。服装も女子大生らしいフェミニンな格好に身を包んでおりあんな服を持っていたのかと驚いてしまったくらいだ。
「Aってあんなに可愛かったんだな」
「な、俺タイプかも」
耳に入ってきた言葉に反応する様に彼は早足で彼女に近付きその手を強く掴んだ。
･→←There is no use crying over spilt milk./br
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