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零した苦笑から煙草の匂いがした気がした。ゆるく引っ張られ続けた服の裾から手を離してくれる気配はまだ無い。小さな姿、となり、手の届くところ、すぐそこにいる。キスだって出来てしまう距離にいる。紫煙を吐き出すついでに隣の幼馴染みに声をかけた。あのさ、って、若干暗い声になっちゃったけど。
「……あのさ、」
「なーに」
「…なんか。すき、やわ、…けっこう、」
かなり前から、今まで、Aだけが好きやで。って、途切れ途切れになりながらも言葉を、息を、吐いて。まだそんなに短くなっていない煙草を灰皿に強く押し付ける。Aの顔はよく見れない。
「…わたしも好きだよ。幼馴染みとして」
「ちゃうよ、そうじゃない、そうじゃなくて、」
「……じゃあ、貰えない、その好きは」
「…世知辛いわぁ、」
「ごめんね」
「謝らんでや。なんか、泣きそうやから」
服を掴んでいたやわらかな感触が消えたのが分かった。ふ、と消えて鼻がツンとする。貰えないと言われてしまった。これでも伝えたのはほんの一部で、まだまだ沢山残っているというのに、昔から俺のことをあまり否定してこない幼馴染みから「貰えない」と、はっきり。ちらりと盗み見たAは気まずそうな、困ったような顔をしていて、俺の視線に気づいたのか澄んだ瞳をふらりとこっちに向けてきた。それを合図にするかのように、丁度いい涼しさを乗せた風がやわく吹いて、まるであの頃、屋上でAを抱きしめた時と似たような光景が出来上がってしまった。あの時からはもう時間は年単位で進んでいる、俺もAも大人になって、周りの人間だって街並みだって変わっている。それでもこの状況に懐古してしまう自分がいた。おれがいるやん、って縋るようにAを抱きしめたあの日を、Aは覚えているのだろうか。
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