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「ちーの、苦しそうな顔してるよ」
「…くるしいもん」
「なんで」
「なんでやろな」
不意に泣きそうになったのは、小さな手がこれでもかと優しく俺の背中を撫でていたから。その優しさに目頭が熱を持っていくのがよく分かる。
すき、すきなんよな、やっぱり。誰よりもはやく俺の悩みとか苦しさに気づいて「なにかあった？」と声をかけるこの女が、どう足掻いても好きで、ほんとに好きで。小さな頃から蓄積され続けたこの熱を今更捨てることは出来ない、そんなの無理。世界で一番愛している、という言葉をあてても差し支えがないほどに、重い恋慕が確かにある。ずっとずっと、消えないままで、こころのなかで、日常の節々で幼馴染みを思い出してしまう。
「なにがあったのかは知らないけどさ、まあ、ね。幼馴染みだから背中くらいはさすってあげるよ」
「…上から目線すぎん？」
「へへ」
くるしい、くるしい。お前を好きなまま時間が進むのが苦しい。もうずっと、お前に恋をしているというのに。それにも気づかずに他の男を見てしまうお前が俺のことだけ考えてくれる方法はどこにあるのと、見つかるわけもないのに探し続けているのすら惨めで堪らない。どうしておれのことを好きになってくれないの。って、ぶつけてしまいたかったのに、全てを吐いて、俺でいっぱいになればいいのに。って。でも出来ないから半分まで減った煙草に縋るしかなくて、軽い箱を手にしながら未だに俺の背中を撫でる幼馴染みの名前を呼んだ。飛び出た声は、おかしくなかったかな。
「なぁ、A、」
「うん」
「煙草吸ってもええ？」
「しょうがないなぁ、このAさんが特別に許しますよ」
「ふは、ありがと、Aサン」
一本咥えて、安価なライターで火を付ける。火薬が焼けていく苦味を含む匂いが鼻腔を掠めるのと同時に、肺いっぱいに紫煙を溜める。軽やかな苦い煙を吐き出せば、優しく動いていた手が止まって、俺の服をきゅっと握った。
「…やっぱりその匂い、あんま好きじゃないなぁ」
「知ってる」
「知ってるのに変えないもんね、いじわる」
「俺の匂いって覚えればええのに」
「…苦手なもんは苦手だもん」
「その苦手なもんを苦手じゃなくさせる力は俺に無いんや」
「…うーん、どうだろうねぇ」
「無いよりの無いやな、それは」
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