痛いくらいの初恋だったよ/ci ページ32
あの頃、ひとことも口に出来なかった好きは体の底に沈殿したまま。大人になってから、それを誤魔化すように煙草に火を付けることが増えた。俺が肺に溜めた紫煙を吐き出す度、「また吸ってる」と笑う幼馴染みに、もうずっと、恋をしている。
「フラれちゃったー、ダメだった」
へらりと無理に笑っている彼女の報告は、俺が想像していたものと違っていて吃驚してしまった。誰が見ても両想いだったのに、フラれたなんて、そんな。「え」と微かな一音を落とす俺に「なんでチーノのほうがショック受けてるの」って、笑顔を崩さないままで、明るく取り繕っているのが苦しそうに見えて頭が痛い。ぎこちない笑顔に対して、上手いことは何も言えなくて、ただただ、脳内で何回も練習した「おめでとう」の一言が行き場もなく体の中を彷徨っている。
「チーノ、帰ろっか」
「ぇ、あ、うん」
机の上に置いてあったスクールバッグを引っつかむ彼女について行くために、俺も鞄の中に荷物を詰め込んでチャックを閉じた。
ここで幼馴染みの告白が成功して、満面の笑みで付き合う報告をしてきたのなら諦められた。彼氏の存在という敵わない力量で抱き続けた恋情が潰されたなら、俺だって、無理だったな、って諦めていたのに。それなのに「フラれちゃった」なんて言われてしまえば、まだ俺でもいけるかなと期待してしまう。もしかしたら、もしかしたら、って頭の中で淡い期待がふよふよと浮いていく。死んだはずの期待。
「…あのさ」
「うん？」
おれじゃだめなん？
呼び止めたくせに、喉元まで這い上がったその言葉を空気に吐き出すことが出来なかった。言葉たちが体内でほろほろと崩れていくのを感じながら首を振る。鞄を持つ手に自然と力がこもった。
「なんでもないわ、ごめん」
「もー、なにそれ」
昔のことを思い出した。鮮明に、ぶり返す。幼馴染みの震えた声と瞳の奥が揺らめく微笑。フラれちゃった、という言葉と共に俺に向けられた笑みはひどく切なくて、数年経っている今もふと思い出して苦しくなってしまう。まるで魚の小骨のような、小さな棘になって喉やら心臓やらをつついている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
