となりがいい/pk ページ28
たった今、俺の隣で授業中にもかかわらず机に伏せ、ふてぶてしくも堂々と居眠りを行っているのは幼馴染のA。
目の前に教科書を立て、その影でぐーすかと気持ち良さそうに眠りについている彼女は、何か幸せな夢でもみているのか、無様にノートに涎でシミを作りながら朗らかな笑みを浮かべている。
間抜けで隙だらけで、馬鹿としか言いようのない度胸のある彼女の行動に、多少驚きつつも呆れて乾いた笑いが漏れる。
｢馬鹿だろマジで…勇気スゴすぎ、勇者じゃん｣
もはや苦笑いすることしか出来ない。呆れてものも言えない。馬鹿だろ、いや馬鹿だ此奴は。
何度居眠りで叱られれば気が済むんだ。自分の内申点をさげたいのか？俺、もう二度と起こさないぞ、って忠告したよな？
幸い彼女は窓際の角の席。何より今は数学教師が板書を黒板に書いており、此方を見ていない。
彼女を起こすなら今だ。というか、彼女を｢説教｣という魔の手から救えるのは今しかない。
仕方がない、今回ばかりは起こしてあげよう。良かったなA、こんな優しくて面倒見の良い幼馴染が隣の席で。あとでジュースでも奢ってもらおう。
意を決して腕をのばし、彼女の肩を軽く3回叩く。
｢お、おーい…Aさぁーん。授業中だぞー起きろぉー………｣
数学教師の反応を伺いながら、ひそひそと声をかけるも、彼女は一向に起きる気配を見せない。
今度は消しゴムを少しだけちぎり、彼女に投げつける。空へ放り投げられた消しゴムの欠片は、見事に彼女にヒットし跳ね返って、ペンを走らせる音に掻き消されたくらいに小さな音を立てて床に落ちる。
｢コラ、起きろって…怒られるぞ。…………起きねぇー此奴ぅ……!!!｣
再度彼女に起きるよう呼びかけるも、もごもごと口を動かすだけ。悠長に深い眠りについたままの彼女に、俺の苦労を知れ、とチョップをかましてやりたい気持ちを抑え、短くひとつため息を吐く。
｢ん……ぅ、へ………ふへ……………｣
なんとも幸せそうな寝言を吐息とともに零す彼女につられ、つい頬が緩んでしまう。
机に肘をつき手に頬を乗せ、可愛いなあ、なんて彼女の寝顔を眺める。
彼女のこの無防備な姿を見れるのも、知られざる一面を知れるのも、彼女を起こすことが出来るのも、全て俺だけ。俺だけの特権。
あんまり幸せそうに眠るものだから、段々と｢起こそう｣という気持ちが薄れていく。もうずっと、このまま彼女の寝顔を眺めていたい。
｢………しあわせ、だなあ｣
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