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珍しく真面目な顔で見つめてくる彼に、思わず心臓がどくんと脈打つ。
急激に羞恥心が押し寄せてきて顔を逸らすも、こっち見て、と数多の女性を堕としてきた脳を溶かす甘い声で囁かれ、拘束されたかのように指先ひとつも動かせなくなる。
鼻のあたりがじゅくじゅくと熱く重くなる。情けなく震えた母音が吐息と共に漏れ出ていく。
熱を孕んだ甘く優しい視線にあてられ、まるで熱中症になったかのように脳がくらくらと揺さぶられる。
熟れた果実のように蕩けた顔で彼の澄んだ瞳に見入る。彼の瞳の中には私だけが映っていて、それに確かな優越感を感じる自分がいた。
｢俺な、Aのこと好きやねん｣
｢ちょい待ってな！俺が言い終わるまで喋らんといて！｣
｢昔からいつも優しくて柔らかく微笑んでくれるAが好きやった。やけど俺は｢幼馴染｣としか見られてない…そう思て、俺んこと見て欲しくて、そんでわざと女遊びしとった………｣
｢馬鹿よな。遊びの女には無敗なんに、Aにだけは勝てへんのよ。他の女に向けてる余裕が、Aの前やと意図も容易く剥がれ落ちてくねん｣
｢そんくらい、Aのことを愛しとる｣
今更だけど、俺と付き合ってください、と頭を下げる彼に情報が処理しきれず、脳が悲鳴をあげる。
彼から告げられた愛の言葉に、更に私の心は掻き乱され狂っていく。
折角両想いになれたのに、彼が私を好きになるはずがない、という自己暗示のせいでどうしようもない不安に押し潰されそうになる。
だけど、もう遅い。今更引き返そうとしても無理だ。私は既に彼に狂わされてる。不安を感じたところで、結局逃げる勇気などない。
｢………ありがとう、ありがとう大先生。はい、喜んで｣
もう、涙を我慢する必要は無いんだね。
幸せと安堵で掠れた声で了承をし涙と鼻水と汗でぐちょぐちょな顔で微笑むと、彼は無言のまま勢いよく抱きついてくる。
ソレに答えるように彼の首に腕を回すと、へにゃりと頼りない笑顔とともに彼に染み付いた煙草の匂いが返ってきて、私の体内を巡り言葉に言い表せられない幸福を増幅させる。
いちばん近くにいたのに、心の距離はいちばん遠くて。いちばん長く傍にいたのに、いちばん一緒にいる時間が短かった。
｢これからは、いちばん近くにいれるね｣
馴染み深い彼の顔が、ふにゃりと幸せそうに綻ぶ。私しか知らない誰も知らない、私だけの笑顔、幸福。
初めて知った彼の唇の柔らかさが、優しく私を包み込んだ。
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