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「ンだとこのアマ………!はァ、低気圧で頭も痛いし…本間ついてへんわ」
「…………悪かったわね、「最悪な女」で」
昔彼から告げられた「最悪な女」という最低な称号を小さく呟けば、ぴくりと彼の指先が反応する。
「…………そのことはもうええやろ」
彼にとってな単なる冗談のつもりだったのか、それとも不意に漏れ出てしまった本音だったのかは知らないが、その言葉はまるで鈍器に殴られたみたいに私の心を酷く痛めつけた。
彼に嫌われた。そう思った瞬間頭の中が真っ白になり、動揺し脂汗と涙がぶわっと溢れてきたのを覚えている。
その時彼は、突然泣き出した私に酷く驚き、形だけの短い謝罪を呟いて去っていった。
こんな時でも慰めもしない屑をなぜ好きになってしまったのだろう、と絶望しつつも、胸の奥にしまい込んだつもりでいた恋心が今も尚、私の心を支配している。
ああ、なんて最低最悪で大嫌いで、それで格好よくて大好きな人なんだろう。
これじゃあ、いつまで経っても嫌いになれないじゃないか。
「……きらい」
ぽつりと漏れ出てしまった言葉は、確かに本音で、しかし嘘でもあって。そんなよく分からない感情に支配されてる私は惨めでしかなくて。いちばん近くにいるはずなのに、いちばん遠くて。
そんな私に彼は、俺も嫌いやわ、と雨音に掻き消されそうなほど小さく弱々しい声で呟く
自分から言い出したのに泣きそうになり、喉元からせり上ってくる感情の波を無理矢理飲み込み、彼が嫌いな理由を上げ続ける。
「女たらしだから嫌い」
「囲いの女性がいない場所では口悪いしカスだから嫌い」
「女性の前だと取り繕ってるけど、本当は最低最悪の屑なとこが嫌い」
「ヤニカス、パチカス、アル中なとこが嫌い」
「浮気性だから嫌い」
次々と嫌なところを上げていくと、自分の中の蟠りが解消されていくのと同時に、自分の好きな人を貶している罪悪感と嫌悪感に襲われる。
だけど、言い出したらもう止まらない。
溢れ出した不満を黙って聞いている彼の顔が見れなくて、終始私の心を映し出したかのような雨を眺めてぶつける。
「こんなにいっぱい嫌いなところがあるの。だから大先生が大嫌い」
「……………だけど、好き」
軽く零れ落ちた言葉は、紛れもない真実、本音。幸か不幸か、隣にいた彼の耳に入ってしまったようで、え、と短く困惑の声が隣から発せられる。
きっと自暴自棄になっていたのだろう。其の儘想いは加速していく。
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