遠近距離恋愛/ut ページ24
｢お嬢さんほど可憐な女性は見たことがない。僕の名は
目の前で甘いマスクと脳を溶かすような魅惑的な声で、得意のトーク力を使い美女に口説き文句を垂れる男は、私の幼馴染で腐れ縁の鬱瀬 大輝。通称大先生。
ぽー、と蕩けた瞳で彼を見つめる美女の頬はほんのり赤らんでいて、満更でもなさそうに目を細めている。
そんな彼を呆れ半分、嫉妬半分で見つめる私は、彼の溜まりに溜まった愚痴の捌け口。そう、言わずもがな都合のいい女である。
残念なことに、毎日違う女性と腕を組み甘い会話を繰り返す彼に、私は恋に堕ちてしまった。
あんな屑男に惚れてしまうなど、一生の不覚。しかし、惚れてしまったものはしょうがない。
クズで最低最悪な彼が、愛おしくて堪らないのだ。
彼に口説かれたこともない、女としても見られていないであろう私が、彼を手に入れられるはずもない…分かってはいるが、どうにも焦がれてしまうのだ。
ああ、彼女が羨ましい。声も容姿も性格も可愛らしく、｢天使｣という言葉が良く似合うあの女性が。彼に口説かれることが出来る、あの女性が。
私の知らない彼を、知っている彼女が。
今すぐにでも邪魔をして、あの女性に｢私の方が彼のことを知っている｣と牽制したい。彼の恋人になりたい。他の女じゃなく、私を見て。私を愛して欲しい。
そんな馬鹿げた幻想と醜い憎悪を胸に抱き、｢嫌われたくない｣その一心でその場を後にした。
＿＿＿
｢本間最悪やわ。折角昨日釣り上げた女とデートしよ思たら、まさかの彼氏持ちでドタキャンされるし。急に土砂降りに見舞われただけやなく、よりによってAと2人で雨宿りする羽目になるなんてな………｣
｢私だって最悪だよ。何が悲しくてアンタと2人きりにならないといけないのさ。セットした髪は雨で崩れるし傘は持ってないし…こんなとこ、アンタの囲いに見られたらおしまいだよ｣
彼の顔は一切見ずに、まるでバケツの水をひっくり返したみたいに地面に打ち付ける雫を睨み続ける。
こんな時でも素直になれず悪態をつく私に、きっと最近堕としたのであろう女性の名前を出し、どうせならその子と2人きりが良かったと文句を呟く彼。
分かってはいたけれど、彼の冷たい対応が予想以上に私の心に深く突き刺さる。涙ぐみそうになり唇を噛み締めると、じんじんとした痛みが私の哀れな感情を誤魔化してくれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
