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ぐっちはそう言って自身の後頭部をガシガシと掻いた。彼ははーあ、とわざとらしく溜息を吐いて歩き出す。私はとうとう置いていかれてしまった。でも、どうしてか追いつく気にはなれなかった。ただ黙って、ぐっちの後ろ姿をぼうっと見つめる。下を向いて歩く彼の背中は妙に小さく見えた。すると。
私が彼と同じように歩き出していないことに気がついたのだろうか。
ぐっちが立ち止まって、振り返る。
「おい」
声が私をつついた。振り向いた彼は驚いたような不安を感じているような焦ったような表情をしていて、なぜか少しだけうれしくなる。そのまま近づいてきて私の手を取ったぐちつぼの手はあたたかかった。行くぞ、と前を向いたぐちつぼに言われ、角度の問題でよく窺えない彼の表情を見ながら私は頷く。私の方をちらりと見た彼に、崩れたマフラーを直された。
「ねぇぐっち」
「なに」
私がぐちつぼの顔を見つめたまま言えば、彼は視線をこちらに寄越さないままそう短く答える。私は彼が何を言いかけたかをわかっていた。だって私もそうだから。きっと彼にそうされたら、私も同じことを言うし、思うし、実行するから。
「先に死なないでね」
「私も死なないから」
「ひとりにしないから」
「だからぐっちも」
「ひとりにさせないでね」
「約束しよう」
「……死んだら、死ぬから」
ぐちつぼは、ぐっちは何も言わなかった。でも私が途切れ途切れに言葉を紡ぐ間に何度もその表情を変えた。驚いたような顔。安堵したような顔。少し恥ずかしそうな顔。不思議そうな、自信のありそうな、穏やかな、苦しそうだけど同意しているような、顔、表情、目の色。
私はその全てを見ていた。その全てを見て、一体彼が手を離されたときどういう表情をするのかを想像して、納得して、目を瞑って、開いて、彼の返事を待った。ぐっちは、少し経ったあとに掠れた声を出した。
「んなの、」
「おれも」
「俺もそうだわ」
「約束なんざ必要ないね」
「俺が手を、離さなきゃいいだけだろ」
「だから」
「あー、そうだな」
「うん」
「ばかなこと、考えんなよ」
「なぁ」
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