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ぐっちは此方まで気の抜けそうな声で笑って、私の頭をぐしゃりと撫でる。まるで犬みたいに撫でる彼の手が私はそこまで嫌いではなかった。まぁ髪の毛がぐちゃぐちゃになるから、そういう意味で言えば嫌だけど。
まぁ、とぐっちは言う。
「だったら安心して俺のこと許してな」
裏切るようなことはしないからさ。
小さく、でもはっきりと私の耳にそんな言葉が届いて、頭の上に乗っていた手が離れていった。私はそれに小さく頷く。きっとこの男ならば私相手にした約束はきちんと守ってくれるだろうと思った。
「じゃあさ」
ぐっちの返答にすっかり満足した私は、これ以上その議論を続けることに飽きて違う話を始める。ぐっちは急な話の転換に怒るでもなく静かに「ん?」と少し間抜けそうな声を出した。
「もしも明日私が死んだら、ぐっちはどうする?」
無論、明日私が死ぬわけではない。死ぬつもりもないし、きっと事故なんかに遭わない限りは死ぬ可能性だってない。だからこれは決して起こるわけのない机上の空論に過ぎないのだが、私は純粋に気になった。ぐちつぼという男が、この質問にどういう返答をするのか。
「え? そりゃあ……」
ぐっちはそう言ったきり口篭る。さすがの彼も悩んでいるようだった。
「そりゃあ?」
口は止まったものの、彼の歩みは止まらない。私の歩幅に合わせて普段よりもずっと遅くなっていたそれが少し速くなり、またすぐに遅くなった。思考の渦の中から彼の心が帰ってきたのだろうか。思ったよりも随分と早く結論を出したなぁ、そんなことを思って彼がどんな顔をしているのか見てやろうと上を向く。そして、驚いた。
「……え」
ぐっちと目が合った私は、思わずその場に立ち止まる。あ、先行かれちゃう、そう思ったのに置いていかれはしなかった。ぐっちもいつの間にか止まっていた。数センチほど空いた距離で見つめ合う。ぐっちはかがんで私と視線を合わせていた。
冬らしい冷たい風が吹いて、軽くマフラーが崩れる。それを直すため自身の首元に手を伸ばそうとしたら、ぐっちがすうっと目を細め、囁いた。
「……死ぬなよ」
「……何いってんの。死なないよ。冗談だよ」
「でも、死ぬのはだめだろ」
小さな声が、はっきりと私の耳に届く。ぐっちは悲しそうだった。別に、これから私が死ぬわけではないのに。
「うん、でも、」
「おめーが死んだら」
「うん」
「……あーいや、なんでもない」
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