そばにいさせて ページ16
『まだ足りないんだな？』
三橋がチャンミンに問いかける。
三橋から見ても、さっきの写真はとてもいいものだと思う。
世に出れば、完璧、100%だと言ってもらえる作品だろう。
ただ、ごくまれに、その100%を超える作品ができることがある。
そんな時は決まって、ユノやチャンミンはこんな風に難しい顔をする。
自分たちのことだけではなく、相手のことも考えて仕事をする時。
いいものを作りたいと、心から貪欲に求めた時。
100%ではまだ足りないという顔をするのだ。
きっと、チャンミンはそうなるだろうと、三橋は予想していた。
ユノの写真をチェックした時に思ったのだ。
今まで何百、何千と写真を撮り、それを見てきたが、その中でも今日のユノはとても良かった。
三橋が言う、100%以上のものだった。
そして、それを作り出したのはきっとAたちだ。
チャンミンの撮影を見ていて、それは確信に変わった。
常に忙しく動きまわるAも、西野もスタッフたちも、本当にいい表情をしている。
この一体感が、雰囲気が、空気が、被写体にいい影響を与える。
そんな些細なことが、特別なものを生み出すきっかけになるのだ。
チャンミンは、自分たちのそんな行動に気付いていないが、もっと何かあるはずだと直感で感じていた。
今日を迎えるまで、撮影のイメージを何回も頭の中で膨らませた。
でも実際Aに会ったら、頭の中で難しく考えるものではないと思った。
撮影に入ってからは、Aをことを想った。
撮られながらもAを見ると、たくさんのスタッフに頼られ、話しかけられている。
仕事をする姿は、やっぱりかっこいい。
毎日忙しく働いているAさん。
きっと家に帰ったらクタクタだ。
ぼくの声を大好きだと言ってくれた。
だったらぼくはその声で、
今日もがんばったねと言ってあげたい。
おやすみと言って、抱きしめてあげたい。
Aさんを、ぼくが癒してあげる。
だから、こっちにおいで？
そう思ったら、自然と腕を伸ばしていた。
カメラの向こう側にいるAの驚いた顔が、一瞬見えた。
Aさん、ぼくの手をとって？
そばにいさせて？
そう思った。
その気持ちを思い出し、チャンミンは口を開く。
『Aさん。ぼくの手をとって、そばにいさせてください。』
『へっ？』
『そうしたら、もっとよくなる気がします。』
意味を理解できていないAと西野をよそに、三橋はまた満足そうに笑った。
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作者名：えむ | 作成日時：2017年11月16日 15時
