海の神（Kn） ページ7
ふわふわとする感覚にAは違和感を覚えた。
ここが天国か地獄では無いのか、と辺りを見回すと、黒髪で紺色の目をした男性と目が合いAは驚いた。
「死ぬつもりだったの？」と問われ、自身に何があったのか思い出した。
Aは先日の嵐で川に流され、そのまま海まで出たのだ。
海の真ん中にある孤島に、Aは男性と共に降り立つ。
男性の名前は、きんときという海の神だ。
自身の領域に人間が流れてきたため、気まぐれで助けたらしい。
「怪我もなく俺の領域に来れたのは運が良かったね」
「……無事でいられたこと、感謝致します」
「畏まらないでいいよ。そんな心狭くないしね」
きんとき曰く、この海域は特殊な流れをしているため、滅多に人が流れ着くことは無いそうだ。
この孤島に存在するのは、きんときとAだけだ。
「長い間、1人で寂しくないんですか？」
「1人が当たり前だったし、魚が人間のことを教えてくれるから退屈はしていなかったよ」
「魚が私たちを見ていたんですか？」
飛び跳ねる魚を見ると、確かに何やら話しているようにも見える。
魚は右へ左へ泳ぎ、孤島を隠すように渦を作った。
それから幾年もの時を2人だけで過ごしていた。
きんときが魚に話しかけているのをAは何度か見かけた。
その都度、Aの住んでいた村はどうなっているのか、人の世は変わったのか聞きたかったが、きんときの難しそうな表情を見ているとAは聞けなかった。
そんな時、きんときの領域に入ってくる人間がいると聞いた。
「珍しい人間だ。Aへの客みたいだね」
「私の客？ きんときが、連れてきてくれてるの？」
「話を聞くぐらいはしようかなって」
波に揺られて来たのは、所々に白髪が見えるが黒髪で紺色の目をした老齢の男性だった。
その男性に心当たりがないAは、首をかしげた。
男性は、孤島に着くと驚いた顔をした。
「約束が違う！」
「ちゃんと言葉を選んでね。君の言葉で未来が変わるよ」
「化け物共がっ」
言い終わる前に、波が男性をさらった。
きんときが小さな声で何かを話している。
Aは一連の流れを見て、頭が痛くなった。
戻ってきたきんときが「大丈夫？」と頭を撫でる。
数時間後、海が荒れた。
孤島のはるか向こう、かすかに見える大陸を海が飲み込んでいく。
「人間は余計なことばかり言うね」
ポツリと呟いた言葉は、さざ波の音にかき消された。
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作者名：ミカ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/elyseeskei1/
作成日時：2022年8月19日 18時
