四十四歩目。 ページ45
―Noside―
遮止の雰囲気が変わったことにその場の全員が気付いた。
ＵＳＪの時、黒霧に飛ばされなかった麗日たちだけがその雰囲気に既視感を覚えた。
そして「間違えた」と狼狽えながら広場に走り出した遮止の様子と重ねた。
『みんなはヒーローになるんだ。先生はみんなを引っ張っていくんだ。あんなところで失ったらダメなの。だから、守らないといけなくて、謝るのは、私の方なんだよ...』
瞳の揺らぎが大きくなって、困惑が滲む。
遮止は本当に分からなかった。
職員室で相澤に謝った後、たくさんの先生から説教を受けた時も、なんで怒られているのか理解できなかった。
相澤や、あの後増援に来てくれた先生たちが何で自分に謝るのか理解できなかった。
今、蛙水たちが謝るのも理解できなかった。
だから困惑してる。混乱してる。自分の当たり前が他の誰にも通じてないことに気付き始めてしまったから。
「うだうだうるせェんだよ！！うぜぇなァ！！」
「ちょ、おい爆豪！！」
窓の外を睨みながらも黙って話を聞いていた爆豪が急に声を荒げる。
切島の静止の声を聞かずにずんずんと遮止の前まで足を進めて睨み付けた。
「テメェが動いたから教師も生徒もあんだけの怪我で済んだんだろーが。オールマイトが手こずるレベルのヴィランを相手にできたのはあの場じゃテメェしかいなかった。でもな、例え敵わない相手でもヒーローが守られるだけなんてあり得ねぇんだよ」
『でも、緑くん怪我したし、梅雨ちゃんにも怖い思いさせたから...私が、脳無を倒せてたらこんなことになってない、』
「うじうじすんなや！！クソナードは自分から突っ込んだだけだわ！！カエルに怖い思いさせたっつーなら、ヴィランに襲われたことよりも目の前でクラスメイトが殺されかけた方がよっぽど恐怖だろーがよ！！クソが！！」
遮止は驚いて目を見開いた。爆豪の大きな声にじゃない、爆豪の言葉にだ。
自分が死にかけたことが蛙水に何かしらの影響を与えるなんて微塵も思っていなかったし、そういう思考になることもなかったのだ。
『梅雨ちゃん、そうなの...？』
「ええ。守ってくれたのに勝手なことを言うけれど、Aちゃんが怪我をするのなら守ってくれなくていいわ」
『っ...だめ、つゆちゃんは、みんなはだめ』
「Aちゃんは私たちが傷付くのが怖いのかしら？」
『うん、』
「私もよ。友達を失うのはとても怖いの」
『でも、...じゃあ、私は、どうしたらいい...？』
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年1月21日 1時
