四十三歩目。 ページ44
―Noside―
「待って、Aちゃん」
足早に教室を出ようとした遮止を引き留めたのは蛙水だ。
繋いだままの手を離さないようにと力を込めた。
引き留められた遮止はパッと振り向いて蛙水と目線を合わて握り返した。
『どうしたの？』
「私、言いたいことがあるの。あの日からずっと考えてたの」
『...うん。何でも言って、梅雨ちゃん』
「相澤先生が脳無にやられている時、怖くて動けなかったわ。Aちゃんが戻ってきて助けてくれると期待してしまったの。授業で貴女の実力を知っていたから。貴女の"個性"を無敵のものだと勘違いしてしまったの」
蛙水の目から溢れる涙を優しく拭いながら、遮止は静かに聞いていた。
周りのみんなも、扉に背を預けて様子を見ている相澤も、ただ静かに、二人を見守っていた。
遮止とＡ組の生徒を会わせたのは相澤の配慮だった。
Ａ組には八百万の後ろに、一つだけ飛び出た席がある。
まだ一度も使われたことのないそれをチラチラと見ては暗い表情をする生徒を気に掛けていたのだ。
教室に行っても会えない。見かけることもない。
相澤は遮止がＡ組の生徒を避けていることに気付いた。もしかしたら、みんなも気付いていたのかもしれない。
それでも、このまま有耶無耶にして終わらせる気は誰にもなかった。
相澤も遮止にＡ組のみんなと真正面から向き合って欲しかった。
「ごめんなさい。Aちゃんも怖かったのに、一人で戦わせてしまったわ。ずっと謝りたかったの」
「僕も...あ、割り込んでごめんね。僕も遮止さんに謝りたい。近くに居たのに動けなかった。君が立ち向かっているのを見ていることしか出来なかった。助けに行けなくて、ごめん」
「そんなこといったらオイラだってそうだ！お前はあんなに頑張ってたのに怖くて逃げだそうとした、ごめん！！...でも、でもさ、プロヒーローが敵わないような奴を相手にするなんて、怖くない訳ないじゃんかぁ...何で、動けるんだよ...！？」
あの時、広場での様子を見ていた緑谷と峰田が蛙水に続いて遮止に謝った。
蛙水は自分の涙を拭う手を柔く掴んだ。両手を包み込んで、峰田を見るその目を真っすぐ見つめた。
その目が揺らいでいることに気付いて、止まりそうだった涙がまた溢れる。
『「何で」...？そんなの、私が聞きたいよ、』
「Aちゃん...？」
『何でみんな謝るの？先生も、梅雨ちゃんたちも。違うよ、前提が違うんだよ。"みんなは助からないといけない"んだよ』
▽
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えると。 | 作成日時：2023年1月21日 1時
