二十六歩目。 ページ27
―心操side―
「すまん、心操。プレゼントマイクに付いて病院に向かってくれ」
そう言われたのは授業が全て終わった後だった。
担任も困惑した表情で何も言えないようだったから俺も深く聞けなかった。
授業の途中で先生が慌ただしく出て行って、自習になった。
帰りのＨＲで伝えられたのはヴィランの襲撃。
ヒーロー科１−Ａが授業をしている場所を狙われたらしい。
そこにはもちろんプロヒーローがいて、Aもいた。
Aは強いから大丈夫かなという心配よりも大丈夫だろうという楽観的な考えをしてた。
だから、ＨＲ後に担任にAのことを聞いた時、理解が遅れた。
骨折くらいならリカバリーガールの治癒で済むから保健室でいいはず。
どれだけの怪我をすれば、病院で治療しないといけなくなるんだ。
「ヘイ、リスナー！浮かない顔だな？」
「...まぁ、心配ですからね。そう言う先生も顔引きつってますけど」
「こいつぁシヴィ〜！！！」
「先生は誰に会いに行くんですか」
「Ah〜...ま、俺も心操と同じよ」
「？」
「暗い表情してちゃ遮止が悲しむぜー？」
「別に...アイツ相手に隠しても意味ないんで」
「ＨＡＨＡ！！惚気られちまったなァー！！」
この人、元気だな。
先生の車の助手席に座るのは不思議な感覚だ。
俺の為か、気を紛らわしたいのか、病院に向かってる間も終始テンション高く喋り続けてた。
ヴィランの襲撃で負傷したのは授業を見ていたイレイザーヘッドと１３号、ヴィランと対峙したオールマイト。そしてAとＡ組の生徒が一人。
オールマイトとＡ組の奴はリカバリーガールの治療を受けて保健室。
三人は同じ病院で治療、そのまま療養。
Aが目覚めたって連絡はまだ受けてない。
「(会いに行って目覚める訳でもない...俺、行く意味あるのか)」
こんなこと言ってたらまたネガティヴって言われるな。
今、会いたいって思ってるのも俺が安心したいだけか。
中学で出会ってからこんなに一緒にいないのは初めてだ。たった数時間が長い。
あの"個性"じゃなかったら普通科の生徒として授業を受けて、ヴィラン襲撃になんて巻き込まれなかった。
...なんて。
あの場に居た時点でAは逃げないで助ける為に戦う一択だ。
誰かを助けるのは正義からじゃなくて、そうじゃないといけないって本気で思ってるから。
その思考の異常さにAは気付いてくれない。
天秤にかけた軽い方の怪我を選ぶ。
Aの命がそんなに軽い訳ないのにな。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年1月21日 1時
