実のところをいいますと 5 (ページ14)

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やっと始まった彼女のライブを見ながらも
一回思い出したもんだから、なんとなくあの日のことが頭から離れなかった。

大金を費やして勝ち取ったサイン会だっていうのに、
伝えたかったこととか考えてたことが全部ぶち飛んで
ただただ2人で泣くっていう、大失敗すぎる時間が流れたけど

そんな状態のままご対面しなければいけないメンバーは後3人残ってた

まず、リーダーのテヨン

少し困ったように優しく笑いながら
「ありがとうございます。助かります。」って言って

何事もなかったかのように、私のペースで話ができるように気遣いながら進めてくれた。

その後のドヨンも、ちょっと強張った顔をしていたけど
私が笑顔を向けた途端、安心したようにホッと息を吐いて「すみません、せっかくのサイン会なのに。」って

私が気分を害していないか気にかけてくれた。

本当は2人とも、大切なメンバーであり大好きなヌナが目の前で傷つけられるのを見てすごく動揺したはずだし

体裁とか立場とか全部忘れて、彼女のことを庇いたくて守りたくて仕方なかったはず

でももう、彼らはただの練習生ではなくなった。

自分の気持ちより優先しなければいけないものがあるということを自覚してしまったんだろう

私は、そんな彼らが立派だと思ったし
セレネもきっとそう思ってるんだろうなって。

2人のおかげで気持ちも少しずつ落ち着いて、ついに最後のメンバーになった。

堂々としていて、芯を持っていて、誰よりも力強く美しく踊る唯一無二の存在感のある子。

どんな困難や苦しい場面が立ちはだかっても、それをバネにどんどん上に昇って行く子。

そんな彼が

テンが泣いてた

あまりの衝撃で言葉を失った私に、彼は何かを決心したかのような表情を浮かべて私のアルバムを手に取ると

一言も話すことなく、何かを一生懸命書き始めた。

その間私はただ呆気に取られて、ぼーっとするままに彼の書き綴る文字を眺めていた。

だってしょうがない、英語だったんだもん。
逆さまから読めるような量じゃなかったんだもん。

ギリギリまで時間を使って何かを書き終えたテンは顔を上げると、最後に一言だけ言った

「今度は絶対ちゃんと守ります。
だから、テンを信じてね、本当にありがとう。」

まだ微かに湿っていた彼の瞳を見ただけで

彼が私に何を伝えたかったのか
十分すぎるくらい伝わった気がした。