稽古 ページ9
A side
「ほら今の。直ってないよ」
ここ、と一言。気付けば首元には彼の木刀があり、持っていたはずの木刀は掌からすっぽ抜けていた。
「刀握り直した時、右肘上がってるよ。それにその後の太刀筋もちょっと崩れてる」
握り直したたった一瞬。きゅっと力を入れた時いつも右肘が上がっているのだという。それに釣られてかその後の太刀筋がそれに伴って少しの間だけ崩れるのだそうだ。
肘が無駄に上がっていると次の一振までに時間がかかってしまう上に、その隙間をつかれて攻撃される可能性もあるため、もし癖になっているのだとしたらちょっとまずい。
柱ともあろうものが無駄な癖のせいで1人欠けるだなんてあってはならない事だ。
『なんで直らないのかな……』
「意識しすぎなんじゃない?ちょっと肩の力抜いてやってみたらどうかな」
『うん。頑張ってみるよ』
そう彼に返事するがやっぱり上手くいかない。今度は右脇と右腕の間にあっという間に彼の木刀が入っていた。
『え、うそ。上がってた?』
「さっきよりね」
何が困るって自分じゃ分からないところだ。今だって、さっきよりも上がっていたらしいが全く自覚がない。もしかしたらこれも直らない原因なのかもしれないなと思った。
「僕やるから。ちょっと見てて」
そのまま立ち上がった彼は木刀を手に取って私に向かってきた。あくまでも見ることが目的のため返したりはせずひたすらに受け流す。
「いくよ」
促された合図に従うように彼の手元に視線を移して目をこらす。
「今」
すると、手元の木刀が打ち上げられた。
握り直し、その流れを一切乱すことなく華麗な太刀筋で。
からから、と木刀の遠くへ転がる音が響いた。
「こらこら。よそ見はダメだよ」
『綺麗でつい』
「ふふっ、ありがとう。でもこれをAが出来るようにならないと」
ニコッと優しく笑い立ち上がった無一郎は、転がった木刀を拾いに行くのかと思ったら、自分の持ってた木刀を私に渡して背中にまわった。自分よりも高いその背にすっぽりとおさまるように包み込まれる。そのまま木刀を持つ私の手の上に彼の手が添えられた。
『え、っと……無一郎?』
「ん、なぁに?」
『んぁ、ちょっと……耳』
「ほら、集中」
そう吐息混じりで言われるが、集中なんてできるわけが無い。耳にかかる息と頬をかすめる長くさらさらな髪。全てが熱を誘うのには十分だった。
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霞桜 - 頑張って下さいね応援してますよ (2022年5月4日 0時) (レス) id: f3badad1aa (このIDを非表示/違反報告)
霞桜 - 無一郎推しです めちゃくちゃ最高ですね私は想像豊か過ぎるので余計に嬉しいです… (2022年5月4日 0時) (レス) @page16 id: f3badad1aa (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - いろはさん» ありがとうございます!不定期ではありますが定期的に投稿できるよう頑張りますね! (2021年1月15日 23時) (レス) id: 2a5e6a7f23 (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - これからもがんばて下さいね (2021年1月15日 22時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - むいくん甘甘で可愛い~ (2021年1月15日 22時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2021年1月12日 21時