もしもし、私メリーさん。嘘だけど。

8話 だからこんなに愛してる。 ページ8

『…へー。お酒の名前で呼ばれてるから三人とも結構飲む人だと思ってたけど、そうでもないんだ』

【はは、コードネームと酒呑み具合はてんでばらばらだよ。俺達三人はゆっくり飲むのが好きなほう。】

『んー。言われてみればそれっぽい。三人ともがばがばお酒飲むタイプじゃなさそうだもんね』


ご飯を食べてる時の三人は世間話をしたり仕事の愚痴を言ったり今後の話をしたりとか色々だったけど、今は三人ともご飯を食べ終わって残ったご飯のおかずでまったり晩酌モードだ。

……三人ってコードネームやセットでウイスキートリオって呼ばれてるからか洋酒のイメージが強いけど、こうやって見てると日本酒も結構似合うんだよな…お猪口と徳利。イケメンのなせる技か。


【…なあ。お前って、機械の中の存在なんだろ？】

『うん？まあざっくり言えばそうだけど…どうしたのいきなり』

【…もったいねえよなあ。】


そう呟くスコッチさんの顔は少し赤くて、まったり飲んでるとはいえ酔いが回ってるなあと彼を眺める。少し表情を緩ませた彼はぼんやり顔で私を眺める。


【…飯も酒もこんなに美味いのに、お前にはそれが伝わらない】

『……なあに、そんなこと考えながらお酒飲んでたの？』


美味しいお酒がまずくなっちゃうよ、と考えることをやめるよう促しても、彼は生返事だけして思考を切り替えた様子も見せない。見ればライさんもバーボンさんも同じ顔して私を見てる。

…まったく、三人して優しくて良い人なんだから。組織の件が解決すれば、きっとあっという間に幸せになれるタイプの人間だ。酒の味よりも私への気遣いを優先する。


『…確かに私にはご飯の味もお酒の味も分からないよ。でも、美味しいってそれを楽しむ三人はとても可愛かった』

【…かわいい？】

『可愛い。おかずを一口食べて美味しいって喜ぶ顔も、隠れてこっそりつまみ食いしたときの仕草も、食事中に弾んでた会話も。こういう話は聞いたことあるかな？』


視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚。すなわち五感。その中の何かが欠けたとき、その何かを残りの感覚で補おうとする活動がある。


『私は確かに味覚も触覚も嗅覚も機能しないけれど、それに代われるだけの視覚と聴覚がある。三人と同じだけ楽しめてる。だから、大丈夫』


私も、ちゃんと楽しいよ。

優しい三人が可愛くて愛しくて、みんな私なんかよりよっぽど年上なのにそんなふうに諭す。こんな感覚は私独特のものだろうか、想像していたより心地良い。

9話 信頼と引き換えに、私はIFを想定する。→←7話 唐突に始まったハニー・ディナー

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す