電気ブラン【天童覚】

記憶と熱情　1. ページ1

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覚から連絡が来ない。それも、2週間。


理学療法士って仕事は忙しいはずなのに、毎日のように電話をかけてきた覚が、ある時からふっと連絡をしなくなった。


それっきり、彼からの連絡を告げる着信音は鳴らないままだ。覚に合う洋楽が流れてくるのが嬉しかったのか、目の前にいるのに電話をかけてきたこともあったのに。布団に紛れた携帯を探すとき、耳にこびり付いた曲。鼻歌でなぞることができたあの旋律も、今ではあやふやになってしまっている。


電話だけじゃない。仕事の休憩時間に(こっちはバリバリ仕事中だってのに)のんびりと送られてきていたLINEも、休みに自由が利くからと週2くらいのペースであった覚本人の来訪も、2週間前からぱったりと途絶えてしまった。


たとえ仕事が忙しくたって、携帯を失くしたって、合鍵を持っているんだから、直接会って連絡することはできる。がんじがらめの中高生の付き合いとは違うんだから。私たちは大人だ。社会の荒波に揉まれて2年も経つ、建前の使い方も上手になった、真っ暗で、ずる賢い大人。


そんな大人になっているのは私だけなのかもしれないし、たくさんの患者さんから愛される天童先生、という顔を持つ覚は本当に忙しいのかもしれない。病院で働いているってことは緊急を要する患者さんがいて私のところに来ている場合じゃないのかも。様々なシチュエーションを考えては、そう言って自分を納得させてきた、はずだった。



「流石に2週間は、まずいよなあ……」


綺麗に畳まれた(といっても私が畳んだ)覚のパジャマを前に、あれこれと悩んでしまう。
パジャマだけじゃない。覚が使っていた歯ブラシも、下着も、愛用していたグラスも、全てそのままだ。窓を締め切った部屋には、覚の痕跡がありありと残っているような気がする。覚の存在を色濃く残しながら、この場にいないのは覚だけ。


何度も試したLINE。既読はついても返信は来ない。ブロックされてはいない、それだけが救い。

ダメもとで電話をかけてみた。お掛けになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないか……という無機質な音声。LINEでかけても呼び出し音が鳴るばっかり。


虚しい。でも、それを通り越して悲しいし、悔しい。いっそ怒りすら湧いてくる。


ぐちゃぐちゃに混ざった感情を表すように、仕事帰りで疲れが見える髪をかきむしった。




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