ふわふわ ページ9
エクボさんです
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何気なく通りかかった手芸屋さんの前で色とりどりの毛糸が売っていた。
ポップには『冬がやってくる!今年の毛糸セール』と書かれていて、そこそこ安かったのであのひとの顔を浮かべながら何個か買ってみることにした。
「それでね、もうすぐ寒くなるからエクボさんにもマフラーをつくったの」
「おお、お前さんも器用だなぁ……ってかその長さなのにマフラーか?」
黄緑色で編んだ数10センチほどのマフラーをエクボさんの前で広げる。
エクボさんは「おいおい」と言いながらちまちま私のマフラーをのぞき始めた。
「こんなちいせぇのがマフラーか……」
マフラーよりも少しだけ大きい緑色の手が、黄緑の編み目をそっとなぞる。
「だって、エクボさん用のマフラーだから」
「いやなぁ、A、俺様は悪霊だからこんなもんなくったって別に寒くねえってことにはならないけどな」
ぶつぶつ私を説教するようにつぶやくエクボさん。
でも、顔は満更でもないみたいで、赤いほっぺたがほんのりとピンク色にそまっている。
「そんなに言うんだったらいらないの?」
そう言ってマフラーをさっと後ろへ隠すと彼は眉毛を片方だけまげながら、
「わかったわかった、そんなに言うなら貰ってやるよ」
と片手を差し出した。
……最初っからもらう気だったくせに。
片手に一部を巻くようにして、胴体にマフラーを巻き付けていく。
すこしだけ長かったのか、終わりの方がまるでしっぽみたいにたれていた。
でも、ふわふわなエクボさんがもっとふわふわになったみたいでもっと可愛いなぁ。
「ちょっと長かったかな」
「まぁ俺様はこれでもいいけどな」
「いや、駄目だよ。今度はちゃんとぴったりのを作ってあげるから」
「……お前、変な奴だなあ」
呆れたように聞こえたのに、エクボさんの表情はなぜか嬉しそうだった。
それにつられて、私もやわらかく笑う。
それから何日か、私はエクボさんにたくさんマフラーをつくった。
色もよりカラフルにして、10数個ほどつくった。
自分でも作りすぎたかなあと思ったけど、エクボさんの喜ぶ顔を思い浮かべるとなんだかもっと作りたくなって、予想していた以上に多くなったのだ。
エクボさんに見せると、さすがに驚かれたが、また嬉しそうに持って帰ってくれた。
あれから冬になると、エクボさんは毎回色を変えながらマフラーをつけてやってきてくれる。
エクボさんは照れたように言ってくれた。
「……A、ありがとな」
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作者名:なつせ | 作成日時:2016年11月28日 23時