隣人のままでいい (ページ1)

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あまり社交的な性格ではなかった。

　『すみません。用事があって。』

職場の飲み会も得意ではなくて、誘われる度に断っていたらいつの間にか誘われなくなった。だからといって職場で気まずいかというと、そうでもなくて周りは皆大人だった。

　『あ、乗りますか？』

マンションのエレベーターに乗ると少し先から男の人が歩いてくるのが見えた。次のエレベーターを待つのも可哀想かなと声をかけると少し駆け足で乗り込んできた。

深「すみません。助かりました。」

深く被った帽子と眼鏡、マスクで全く表情は分からず、でも雰囲気で余計なお世話を焼いたわけではないのが分かって心の中でほっと一息ついた。

　『あ、何階ですか？』

ボタンを押す気配がなくて声をかけると同じです、と返されてそのまま会話は無くなった。無言のまま目的の階に着いて２人とも降りたのだが、二人が同じ方向にずっと歩いていて、なんだか気まずい。

深「あの、」

ついに自分の部屋に着いたら男性は少し笑ってお隣の部屋を指さした。

深「お隣さんだったんですね。」

引っ越してだいぶ経つけど始めて隣人と出会った。

深「そうだ、さっきのお礼。貰い物なんだけど、良かったら食べて下さい。」
　『お気になさらず。数秒待ったくらいですから。』

鞄からお菓子を出して私に渡してくる彼にやんわりお断りを入れるけど、俺これ食べれないから食べてくれると嬉しいとまで言われると断れなくてありがたく頂いた。

　『あ、ちょっと待っててください。』

ガチャっと中に入り急いで冷蔵庫から昨日のおかずを取り出す。取り出したところでふと我に帰る。

　『待て待て。初対面の人が作ったもの普通食べれる？』

悩んだところで待たせてしまっているし、タッパーを持って彼の元へ戻る。

　『すみません、ほんと何も考えてなくて、いらないと思うんですけどこれ、』

なんだか文章になってない拙い日本語を喋って恐る恐るタッパーを差し出すと彼は数秒固まっておずおずと受け取ってくれた。

深「おかず渡されると思わなかった。」

ハハハッと笑う彼に恥ずかしくなって下を向く。

深「これ煮物？あ、こっちはハンバーグだ。」

うまそー、ありがと！と言う彼に引かれてなさそう、と顔を上げる。

深「お腹空いてたから嬉しい。ほんとありがとね。」

それじゃ、と中に入った彼の眼鏡越しの優しげな瞳を私はずっと忘れることは無いだろう。