椿 (ページ1)

今日:6 hit、昨日:2 hit、合計:9,739 hit

1 ページ1

目覚ましの音に気づき目を覚ます。重い体を起こしてカーテンを開けると、窓から見える海がキラキラと陽の光を反射させている。綺麗。ここは海が本当に綺麗だ。毎朝、海を見る事が引っ越してきた頃からの習慣になっている。数分間、海を眺めていると下からお母さんの声がした。

｢Aー！起きてる？｣
｢…起きてるよ｣
｢良かった、入学式なんだから早く支度しなさいね｣

そう、今日から高校生だ。新しい制服に着替え、鏡の自分と目が合う。一昨日ばっさりボブにきった髪の毛を整え、スカートを少し短くして、少しピンクに色づいてるリップを塗った。うーん、マスカラもしていこうかな？でも先生にばれたら面倒だし、どうしよう。鏡の前で悩んでいると再び下からお母さんの声がした。

｢ご飯いらないの？もうすぐ大友君来ちゃうわよ｣

やばい。もうそんな時間？急いで、鞄のなかに必要なものを詰め込んで階段をかけ降りた。下に降りお母さんからお弁当を受け取ってローファーを履き、新しく買った香水を少し振って、家を出た。

玄関先に出て大友を待つ。一緒に登校するようになったのは、引っ越して馴染めなかった私を助けてくれて仲良くなってからずっとだ。高校も一緒に行こうって言われたときは嬉しくて舞い上がった。私は大友が好きだけど、彼は妹とかそういう風に思ってるんだろうな。大友に少しでも意識してもらいたくて、可愛いなろうと色々努力してるんだけど。もう一度鏡でチェックしていると、大好きな声がした。

｢……A？髪切ったんか、誰かと思ってビックリしたわ」

振り替えると、少し困ったように笑う君がいた。あぁ、その笑い方、すごい、好き。

｢へへ、驚いたでしょ？似合う？｣
｢まぁ、ええんちゃう？｣
｢もう、適当！｣
｢あーはいはい、似合っちょるよ｣

呆れるように笑って、はよ乗れと自転車の後ろを指差してくる。ここの席はずっと私だけ。少し優越感に浸りながら大友のお腹に手を回す。バレないように大友の背中で大きく息を吸うと、いつもの大友と洗剤がまざった香りがして安心する。あー、好きだなぁ。回した腕から好きの気持ちが移って、両思いにならないかなぁ。なんてあり得ないこと。

｢…A、なんか匂い替えたんか？いつもと違う」
｢うん！椿の香水買ったの｣
｢ほんと椿好きやな。ええ匂いさせてスカート短くして、高校生デビューか？｣
｢なにその言い方！大友だって眉毛いじってる癖に｣
｢もー、それまた言う｣