第１３話 誘惑 ページ15
「次はAの番だよ。」
遠くで、ヴィクトルの声が聞こえた。
震えて思うように動かない足を叱咤する。
(動け。
動けよ。
あの頃とは違う。
誰のものでもない。
これは僕のーーーー)
ぐわん、と世界が暗転した。
(・・・俺の、身体だ。)
心が軋むのを無視し、地面から足を離した。
ゆっくりと、リンクに向かう。
「分かってるよ、ヴィーチャ。」
万物を魅了するような圧倒的な存在感を放つ。
「Aくん・・・じゃ、ない？」
急な変貌に動揺した勇利に、ユーリは目を細めて言った。
「いや、あれはAだ。
Aが役になったんだ。」
それにしても、と考えに耽る。
(あんな一瞬できり換える対応力は、ちょっとやそっとの練習では身につかない。
Aはいったいどれだけの時間をかけて役になる技術を習得したんだ。)
気の遠くなる時間を想像して、冷や汗をかいた。
リンクではAが滑り始めている。
ツンとした無表情
品定めをするような目
やがて運命の1人を見つけると、その目に邪険な光がやどった。
唇を軽く舐め、誘惑する
怪しげに蠢く指先
官能的に動く腰
あまりに背徳的で目を逸らしたくなるが、Aがそれを許さない。
曲は後半に入った。
一気に張りつめていた熱が放散したかのように、運命の相手を捨てる。
追い縋る相手をかわしながら、軽薄な笑みをこぼす。
『俺が、本気でアンタを好きだったとでも？』
そんな幻聴が聞こえたと同時に、曲が終わった。
勇利とユーリによる盛大な拍手がリンクを包む。
息を切らしたAがかけよるが、ヴィクトルの表情は硬い。
そのままヴィクトルはAの頬を両手で包んだ。
「はっ、 はぁ、
僕、の演技、どうだった？」
「・・・上出来だよ。」
言葉とは裏腹に、ヴィクトルの顔は険しい。
それに気づかないAは、青白い顔をへにゃりと崩した。
「ふ、 はぁ
よ、かった。
嬉し、 なぁ。
ふふっ
・・・せんせ、が褒めて、くれた。」
息が整わないまま、眠るように意識を落とした。
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るろまる(プロフ) - フィーアさん、コメントありがとうございます。ノンビリですが更新していきたいと思っています！ 感想、とても嬉しかったです！ (2017年1月12日 12時) (
レス) id: 6d0c896ab0 (このIDを非表示/違反報告)
フィーア - とても面白かったです！！！更新頑張ってください！！ (2017年1月9日 17時) (レス) id: 65845fd388 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：るろまる | 作成日時：2016年12月11日 22時
